前年(2015)度までの研究成果は、多数の衛星観測データを横断的に活用し、熱帯大気の大規模場平均上昇流速度を算出する解析手法の開発と、地上観測データにもとづく衛星推定値の検証研究を中心に進めてきた。一方、熱帯では大規模平均場(およそ水平100㎞程度の領域を指す)の力学は、領域に内在する多数の積雲や層状雲の運動により駆動されることが知られており、積雲スケール(1㎞から10㎞程度)の物理過程と大規模場力学の関連を明らかにすることは熱帯気象学における積年の課題である。この問題意識に立ち、これまで開発した解析手法をさらに拡張し、個々の積雲内の上昇流速度を衛星観測データから推定する手法を考案した。その内容は以下のようなものである。積雲質量フラックスは、まず簡便な鉛直一次元雲モデルをもとにさまざまな雲内鉛直速度を構築し、その中から衛星観測から導かれる雲頂浮力に整合する解を選びだす方法をとった。ここで用いた雲頂浮力推定値は、ニューヨーク市立大学のJohnny Z. Luo博士により提案された衛星観測手法の結果を用いている。一方、大規模場平均質量フラックスは、既に開発済みの手法に基づき衛星観測大気熱力学場から別に求めることができる。これらの観測値を、激しい降水システムの出現前後の時間軸上に投影することにより、降水発達に伴う大気質量フラックスの動態が明らかになった。この解析結果は、熱帯対流力学のさらなる理解および全球気候モデルの積雲パラメタリゼーション評価にあたりユニークな観測資料を与えると期待される。
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