研究課題/領域番号 |
26610151
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
千手 智晴 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (60335982)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 近慣性内部重力波 / 日本海固有水 / ビーム構造 |
研究実績の概要 |
日本海深層の海水混合に寄与する近慣性周期の内部重力波(NIW)の構造や時間変動を調べるために、2014年5月に大和海盆深層に流速計を係留し、測流を行った。観測点は海盆東部のSH1 (38-15.6N, 135-50.6E)とSH2(38-17.0N, 135-50.7E)である。SH1では背景流の観測を目的に、1000mと2000m深に超音波流速計を設置し、30分間隔で測流を行った。一方、SH2では2635m深に超音波式多層流速計(ADCP)を係留するとともに、2475mと2560m深に超音波流速計を設置し、1分間隔で測流を行った。なお、SH2の係留系は同年8月に、SH1の係留系は10月に回収した。観測の結果、約12日間にわたるSH2における詳細な流速変動を捉えることに成功した。各層とも観測期間を通して近慣性周期の変動が支配的であったが、変動の振幅には変調が認められ、期間前半の振幅は後半の振幅の約2倍であった。このことは、期間前半にNIWがwave packetの形で観測点を通過したことを示している。また、上層ほど振幅が小さい傾向が認められたことから、NIWはビーム構造をもっていたと推定される。さらに、期間前半の流速変動には上層から下層へ向かう位相伝播が認められ、上層ほど流速ベクトルが右に偏向する傾向が認められた。このことは、観測されたNIWは下層から上層へ向かう群速度をもっていたことを示している。ただし、期間後半の変動についても同様の解析を行ったが、明瞭な特徴を見出すことができなかった。 2010年に日本海の広範囲で実施した降下式ADCP(LADCP)観測による流れの鉛直分布データを解析した。海底上2000mの水柱内の流速分布について回転スペクトルを計算した結果、鉛直波長が120m以上の領域では、深度とともに流向が反時計回りに回転する成分が卓越しており、下層から上層に向かう群速度をもつ内部波が卓越していることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年に行った予備観測(2日間)を大幅に上回る12日間の深海でのNIW観測に成功した。この観測により、日本海(大和海盆)深層ではNIWが卓越していることが実証でき、その構造や発生域、伝播経路、海底での反射の可能性などについて有用な情報が得られた。またLADCP観測結果の解析からも、上向きに伝播するNIWの存在を示すことができた。これらのことから、研究は概ね順調に進展していると評価できる。しかし、NIWの振幅が時間的に大きく変調するという、当初予想していなかった現象に遭遇したことから、今後の研究の進め方について再検討が必要であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度と同じ大和海盆東部への流速計の係留は完了しており、平成27年5月に回収予定である。この観測では秋季の流況が得られるはずであり、この観測結果に基づいて、NIWの季節的な違いについて検討する予定である。また平成27年度には、平成28年度に予定していた大和海盆以外の海盆での係留観測を前倒しして実施する予定である。これによってNIWの場所による違いを検討する。ただし平成26年度の結果から、同一地点でも期間によってNIWの振幅が大きく変化することが明らかとなったため、NIWの振幅変調の原因や現象の時空間的な広がりを調べる必要がある。平成27年度に予定していたLADCPの繰り返し観測に先だって、流速の複数点同時計測を行うべきかどうか検討している。
|