中緯度には海面水温の水平勾配が大きな海洋前線が様々な場所に存在している。海洋前線は、海面近傍の傾圧性の維持及び大気の移動性擾乱の配置を決定し、深い対流を誘発している。その結果、海洋前線の影響は対流圏全層にまで及んでいることが分かっている。このことから、海洋前線が重力波の発生を変調させると、その影響が中層大気まで影響を及ぼしている可能性も考えられる。 本研究では水平解像度60km、鉛直解像度300mで高度80kmまでをカバーする高解像度気候モデルを用いて、海洋前線が中層大気に影響を与えるかどうかを調査した。重力波抵抗パラメタリゼーションは用いていない。昨年度までに現実的な海面水温分布と海洋前線を平滑化した海面水温分布を気候モデルの境界条件として与えた実験を行ってきた。統計的有意性を得るために、今年度は更なる長期積分を行い、上記モデルを20年間走らせた。その際、平滑化を施す緯度を変えた実験も行った。 しかしながら成層圏・中間圏ジェットの年々変動は大きく、海洋前線の平滑化の有無の実験との間に統計的有意な結果が20年程度の積分では得られなかった。最低でも100年程度の積分が必要なことが考えられるが、本研究で用いた高解像度モデルで100年単位の数値計算を行うのは、現段階では非常に困難である。本研究から、海洋前線の有無が、成層圏・中間圏大気大循環の変動に果たす役割は20年程度のシミュレーションで見た場合は非常に弱いという結論を得た。
|