地球大気中に満ちあふれている大気波動は,エネルギー・運動量輸送の担い手となり,様々な大気 規模の変動を駆動する原因となっている.近年,下層大気や地表から伝搬する “音波” が引き起こす電離大気(高度 100 km 以上)の擾乱が注目されるようになった.しかし,超高層大気での音波の水平構造の観測はこれまで行なわれておらず,その観測的描像は未だよく分かっていない.本研究の目的は,下層と電離大気の中継点(中間圏界面付近:高度 ∼100 km)における音波の2次元イメージン グ観測である. 中間圏界面付近で発光する大気光をトレーサーとして,音波のイメージング観測を試みた.はじめに大気光画像から位相速度の早い波動(音波モード)を検出するソフトウェアの開発をおこなった.擬似的な音波構造を画像中に再現し,波動パラメータ(水平波長.位相速度・伝搬方向・発光強度振幅)を変化させ,自動検出の制度および検出限界を調査した.平成28年度3月6日~3月12日,11月28日~11月30日に信楽MU観測所おいて,音波検出に特化した大気光特別観測モード(OH大気光のみの観測:15秒露光,30秒サイクル)を実施し,合わせてMUレーダー流星観測モードの共同実験をおこなった.得られた大気光画像を解析した結果,音波を示すような大きな位相速度(300 m/s以上)を持つ波動は検出されなかった.もともと音波の引き起こす大気光強度振幅が非常に小さいのか,観測実験を実施した晩には顕著な音波が存在しなかったのかを切り分けるのは難しいが,今後は定期的に音波観測モードの特別観測を申請するとともに,得られたデータをより詳細に解析する.
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