研究課題
太古代の地質試料には、硫黄(S)の質量非依存性同位体分別(MIF)が記録されている。MIFの生成メカニズムをふくむ太古代のS循環を明らかにすることは、大気・海洋系の酸化史を理解する上で、きわめて重要である。海水硫酸は、大気・海洋系のS循環において、硫酸還元や硫黄酸化などの様々なプロセスにかかわる要の物質である。太古代のS循環を理解する上で、海水硫酸の4種S同位体比を解明することは、とくに重要である。炭酸塩置換態硫酸(CAS)は、太古代の海水硫酸の重要な記録媒体である。しかしCAS の4種S同位体分析法はまだ確立されていない。本課題において研究代表者は、この分析法の確立を試みる。そしてこの分析法を地質試料に適用して、太古代における、海水硫酸の4種S同位体比の経年変化の解明を試みる。CASを岩石から回収する際の困難の1つは、岩石中にふくまれる黄鉄鉱のコンタミネーションである。研究代表者は、この黄鉄鉱のコンタミネーションを最小限にとどめてCASを回収する方法を新たに考案した。平成26年度は、この新しいCAS回収法の有用性を、現世の海洋に生息するホタテの貝殻を用いた基礎実験によって検証した。ホタテ貝殻の粉末に人為的に黄鉄鉱を混合させた粉末を作成した。新たに考案した方法にしたがって、この混合粉末中からCASを回収し、本来のCASのS同位体比が再現されるか否かについて調べた。この結果、人為的に混合させた黄鉄鉱にかかわらず、ホタテ貝殻中のCASのS同位体比が再現されることが確認された。新たに考案したCAS回収法の有用性が確認された。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標通り、平成26年度において、新たに考案したCAS回収方法の有用性を確認することができた。この方法によって、黄鉄鉱の混入を最小限にとどめて岩石試料中からCASを回収することが可能となった。
平成27年度では、平成26年度にその有用性が確かめられたCAS回収方法を、太古代の岩石試料に適用する。とくに、太古代後期の岩石試料についてCASの4種S同位体分析を行う。これにより、太古代後期における海水硫酸のS同位体比の経年変化の復元を試みる。
研究代表者の平成26年度における雇用条件の都合上、当初予定していた海外の学術調査を実施することができなかった。このための費用が次年度使用額として生じた。
研究代表者の雇用条件の変更にともない、平成27年度に、海外における学術調査を実施する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
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