研究実績の概要 |
中国高度高原のレス・古土壌層の帯磁率は東アジア夏季モンスーン、特に降水量の代理指標として古気候学の分野で広く使われている。代理指標となる理由は、降水がもたらすレスの土壌化により生成する二次的な磁性粒子が帯磁率の増加を引き起こすためである。しかしながら、土壌化により生成する磁性粒子の種類は何か、それがどのような状態で存在するのか実態は解明されていない。岩石磁気学実験により、間接的に磁性粒子は超常磁性(SP)か単磁区(SD)サイズの強磁性鉱物であることわかっていることから、本研究では岩石磁気実験に加え、電子顕微鏡観察によってナノスケールで存在すると予想される磁性粒子の探査を行った。 まず、帯磁率値の異なるレスと古土壌試料の砕屑粒子を3つの粒度帯(D1: >10 μm, D2: 10~1 μm, D3: <1 μm)に分け、帯磁率の周波数依存性、IRM獲得実験、熱磁気分析を行った。その結果、約50nmかそれ以下のサイズであるSP粒子はD3ではなく、D2に最も多く含まれていることを発見した。さらに、D1にもわずかであるが含まれている。このことは、土壌化は氷期にも起こる普遍的なものであり、土壌化により生成したSP粒子、SD粒子は単体で存在するのではなく、砕屑物中に含有物として入っていること示唆する。IRM獲得実験、熱磁気分析からSPまたはSDサイズの土壌化生成磁性粒子はマグネタイトかマグヘマイトであることも分かった。 次に、フィンガーマグネット法を用いて分離したレス、古土壌試料から強磁性粒子の抽出を試みた。量が少ないこともありレスからは物質は磁気抽出できなかったが、古土壌試料からは大量の砕屑粒子が抽出できた。磁気抽出した砕屑粒子のSEM観察の結果、鉱物は主に白雲母と黒雲母、わずかな石英、磁鉄鉱からなることが分かった。最も多いのは、白雲母であった。この結果、土壌化生成磁性ナノ粒子は雲母などケイ酸塩鉱物中に含有物の形で存在すると結論した。
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