昨年度に続き、貝殻をモデルとして、動物の色彩パターン形成の制御機構の解明を目指して研究を行った。前年度までに、貝殻色素の反射光のスペクトル情報とラマン分光分析から推定される色素化合物の構造情報の統合を進めてきた。この研究でポリエンの構造と色彩決定が明確となり、論文を準備した。また、外套膜組織のトランスクリプトームデータから、モルフォゲンと考えられる酵素の解析を進めた。貝殻の色彩パターン形成のモデル化にあたり、非常に多様である貝殻の色彩パターンを空間的に記載し、相互比較することは極めて困難であった。そこで、海中における貝類の主要な捕食者の視覚に合わせて単純化することにより、貝殻内での色素の分布を数学的に表現する手法を開発した。また、干潟に生息する貝類をモデルとして解析を行い、微細藻類を起点とした種と大型藻類食の種は、その体組織の炭素同位体比から食性を判別できることを示した。ラマン分光分析による貝殻色素の構造推定から、大型藻類食の貝類の多くの種では、その他の食性を持つ貝類種と比較して、貝殻色素としてのポリエン化合物の関与は薄く、色素化合物の主成分はポルフィリンである可能性が示されている。そのため、この成果は遺伝子解析と共に、貝殻色素化合物と代謝や食性との相関を探る際の指標として利用できる可能性がある。また、ラマン分光分析の結果をもとにSEM-EDSによる元素分析を行い、従来貝殻色素として報告されてきたポリエン、ポルフィリン、メラニン等の有機化合物以外に、無機化合物が貝殻の色彩に強く関与している分類群があることを発見した。
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