研究課題/領域番号 |
26610167
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 講師 (20513641)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | vital effect / サンゴ骨格 / 同位体 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
サンゴ骨格に記録される炭素安定同位体比は同位体平衡化で沈積した場合より-3~-4‰ほど低いことが知られている。これはvital effectとよばれておりこのメカニズムを解明するのために、すでに開発済みのサンゴポリプモデル(Nakamura et al 2013, Coral Reefs: 32 779-794)をベースに、炭素同位体の拡張モジュールを開発し、ポリプモデルに組み込んだ。このポリプモデルはサンゴ生体内の物質フラックスやマスバランスを詳細に表現したプロセスベースモデルであるため、同位体を含んだモデルへの拡張は比較的容易に実装することが可能であった。先行研究によるサンゴ骨格の炭素同位体比のvital effectを引き起こすメカニズムとして、1) 呼吸由来の軽い二酸化炭素を石灰化に使用している (e.g. Goreau 1977)、2) 二酸化炭素の水和および水酸化の際に引き起こされる動的同位体効果 (e.g. McConnaughey et al. 1997) の二つが主な仮説として挙げられる。そのため、その二つのプロセスを炭素同位体モジュールに組み込んでモデルの数値シミュレーションを行うことで、どちらの仮説が尤もらしいかを検証した。その結果、1) の仮説を組み込んだモデルは、-3~-4‰の差を十分再現できた。一方で、2)のみで-3~-4‰の差を再現しようとした場合、細胞間を流れる物質のパスをかなり制限した状態でしかこの差を引き起こすことができず、その場合、石灰化母液内の炭酸種が枯渇してしまい十分な石灰化が起こらなくなることが確認された。そのため、vital effectのメカニズムとして、1)が有力である可能性が高いことが分かった。ただし、まだ実際のvital effectを十分再現しているとは言えず、更なる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サンゴ骨格に記録される炭素安定同位体比のvital effectのメカニズムについて、尤もらしい仮説を絞り込むことが出来たが、この仮説をvital effectを引き起こす主要なプロセスとして採用するかどうかは、今後のモデル設計すべてに関わってくるため、この仮説の確からしさや、このモデルが堅牢であるかを十分に検証する必要があった。そのために炭素同位体比モジュールの開発がやや遅れている。それに伴い、酸素同位体比、Sr/Ca比や、pHの指標と考えられているホウ素同位体比のvital effectについても、今年度にモデルの構成の検討を行い、モジュール開発を始める予定であったがこれらは未着手となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き、サンゴポリプモデルに組み込むための炭素同位体モジュールの開発を進める。特に、炭素同位体比のvital effectのメカニズムについて解明し、モデルに陽に組み込むとともに、モデル設計および方向性を確定し、基本モデルを完成させる。また、酸素同位体比、Sr/Ca比やホウ素同位体モジュールについても開発を進める。 シミュレーションによるモデルのアウトプットの妥当性の検証は、手始めには既存の文献から得られる情報を基に検証を進める予定である。ただし、炭素同位体比のデータはその解釈の難しさから未発表であるものも多いため、サンゴ骨格を分析している研究者とコンタクトをとり、未発表データ等を使用させて頂く予定である。また、研究代表者が東工大灘岡研究室と共同で石垣島白保サンゴ礁域で過去5年以上にわたり継続的に水温・塩分をモニタリングしているサイトがある。また、pH・全炭酸・アルカリ度などの炭酸系パラメータや全炭酸の炭素同位体比、栄養塩、クロロフィルなども長期にわたり定期的にサンプリングを行っている。このような環境データの整ったサイトでサンゴを採取・分析し、モデルの検証に用いることで、より詳細な検証も可能となるため、データの不足があった場合はこのサイトでサンプルを採取し、分析することで検証データとして使用する可能性も考えている。また、必要に応じて飼育実験などを行い、環境をコントロールしたサンゴを用いた分析等も実施を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
炭素同位体比のvital effectのメカニズムを明らかにするために、野外でサンゴのサンプリングをし、分析する必要性が出てきた。そのため、次年度にサンプリングや分析を行うための旅費や分析費用を確保するために、本年度の予算の一部を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究代表者が東工大灘岡研究室と共同で過去5年以上にわたり継続的に水温・塩分をモニタリングしているサイトが石垣島にある。そのサイトの近傍で、サンゴのサンプリングを行う。pH・全炭酸・アルカリ度などの炭酸系パラメータや全炭酸の炭素同位体比、栄養塩、クロロフィルなどの関連する環境パラメータも採水し分析を行う。サンゴ骨格の炭素・酸素同位体比およびSr/Ca比の分析は北海道大学で、サンゴの生体組織の炭素同位体比は東大大気海洋研でそれぞれ分析を予定している。
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