研究課題
竜骨ノジュールとは,白亜紀以前の海洋の海底で,大型脊椎動物の死骸を中心に形成されたノジュールのことで,現在の海洋では鯨骨群集として知られるような生態系を形成していた場所に形成されたものである.炭酸塩鉱物に微量に取り込まれる硫酸態硫黄の同位体比は,ノジュール形成場所の酸化還元状態を記録する.得られた硫黄同位体比は4か所でいずれも4-6‰の値を示した.取り込まれた硫酸イオンの少なくとも一部は一度還元態硫黄となり,その後水の入れ替わりにより再酸化を受けたものである.つまり酸化還元境界がノジュール表面に非常に近い場所に存在した(パッチ状に)ことを示す.炭素同位体比は竜骨付近で漸進的に約-20‰から約9.5‰へと約30‰も変化しており,最終的にはメタン生成が生じたことが明らかである.このことはノジュールの形成の進行に従ってメタン発酵の影響が強まり,また周囲の海水との交流も閉ざされていったことを明瞭に示す.このノジュールの形成場所は元来極度の還元状態であったのではなく,周囲には酸素を含む海水があり,竜骨近傍のみで酸化還元状態が変化してノジュール形成が進行していったのであろう.酸素同位体比は,漸進的に約-0.4‰から-3.6‰へとシフトしており,石灰化の末期では周囲の水とノジュール形成の母液とが十分に交換されておらず,骨の内側ほど海水に近い母液から晶出したと考えられる.この-0.4‰という値は,約40Km南方の羽幌地域で底生有孔虫化石から得られた酸素同位体比に一致し,水温換算値は約15℃である.ノジュールの酸素同位体比を用いた海水温推定を行うに当たり,竜骨ノジュールの成因をしっかりと理解しておく必要がある.竜骨ノジュールを用いて海底古水温を推定できる(少なくとも,本研究で用いた試料では)ことが明らかになったが,竜骨との位置関係に留意してデータを出して考察を進めることが重要である.
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Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
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http://earth.s.kanazawa-u.ac.jp/Paleo_Lab/index.html
http://www.paleo-fossil.com/~robert_jenkins/index.html