研究課題/領域番号 |
26610169
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (40422092)
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研究分担者 |
清水 浩之 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (60610178)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 変成作用 / 脱水収縮反応 / 加水膨張反応 / 離散要素法 / フラクチャー / 流体流動 / 反応 |
研究実績の概要 |
本年度は,まず,反応-脆性破壊-流体流動を組み込んだ基本的なモデルを構築した.累進変成作用と後退変成作用においてそれぞれ特徴的である,脱水収縮反応と加水膨張反応について,数値シミュレーションを実施し,その反応の進行の仕方,フラクチャーパターンについて検討した.また,本年度の研究成果は,当該分野の主要な国際誌であるEarth and Planetary Science Lettersに掲載された. 1. モデルの構築 研究分担者の清水がすでに開発していた2次元離散要素法のシミュレーションコードをもとに,変成岩条件に適した反応,破壊,流体流動のモデルを試行錯誤の上,構築した.工夫した点としては,脱水・加水反応の速度を流体圧依存の関数として定義したこと,また,体積変化を伴う反応の違いを評価するのに適した岩石モデルを考案した.各粒子の空隙部分の流体圧を計算し,流体流動にはダルシ―則を適用した. 2. シミュレーション 典型的な例として,A = B+ H2Oという反応(右向きが脱水反応,左向きが加水反応)についてのシミュレーションを行った.その結果,脱水収縮反応ではフラクタルツリーのようなき裂が進展し,加水膨張反応ではT字の交差をもつポリゴンタイプのき裂が発展することは明らかになった.この対称的なき裂のパターンは,水の流れではなくて,反応による体積変化が大きく支配していることが分かった.また,体積収縮反応では,収縮によってき裂が形成し,流体が流れやすくなってさらに反応が進行するという正のフィードバックが働くのに対して,体積膨張反応では,岩石モデル内に圧縮場が形成され,反応がとまってしまうという負のフィードバックが起こることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の目標は,1. 基本的なモデルを構築して,離散要素法としてシミュレートできるかどうかを確認すること,また,2. 脱水反応と加水反応の違いを明らかにすることである。すでに論文成果として現れるなど,当初の予定以上に進展している.今回,構築したモデルは,物質移動として流体の拡散しか考えない既往のモデルとは異なり,流体流動を取り入れた初めての反応-脆性破壊-流体流動モデルであり,成果を発表した日本地質学会においても,国際誌Earth and Planetary Science Lettersの査読者からも大きな評価を受けた.また,上記の概要の中でも述べた通り,累進変成作用で典型的な反応である脱水収縮反応と,後退変成作用の加水膨張反応では,き裂パターン(フラクタルツリー型 vsポリゴン型),反応の進行の仕方(正のフィードバック,負のフィードバック)が明瞭に異なることを明らかにしている.このことは,天然の変成帯において,なぜ累進変成作用が比較的均質に進行し,一方で後退変成作用はき裂周辺で不均質に進行ししばしば前のステージの岩石が反応が不完全なまま残っているのかという本質的な質問に迫るものである.ただ,本シミュレーションは非常に時間がかかるものであり,計算上で仮定した様々なパラメータの値や条件について,その影響を探索できた訳でない.本シミュレーションのモデルは我々が独自に開発したものであるため,プライオリティーは高いが,重要度の高いものから広い範囲でパラメータスタディをする必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究を進めきた中で,いくつかの乗り越えるべき課題と,地球科学的に重要なテーマがより明確になってきた. 1. 拡散の導入および無次元数 流体移動に関して,水の拡散について,き裂のない部分の水の圧力に比例する物資移動として導入することにより,計算上の球要素のサイズの人工的な効果を排除する.また,シミュレーションの中では,破壊,流体移動,反応という時間スケールのことなる3つのプロセスが含まれており,計算を安定化させるために,反応や流体流動を天然の変成作用よりも加速させている.天然との比較を明確にするために,ダムケラー数やペクレ数に相当する無次元数を導入して,流体流動(or 拡散)と反応の相対的な速度についての議論を明確にする. 2. 体積変化による破壊と水圧破砕 累進変成作用において,脱水によって間隙水圧が上昇して水圧破砕が進行するという議論がしばしばなされるが,初年度のシミュレーションでは体積変化が重要で水圧破砕が起こらなかった.本年度は流体移動に対する脱水速度を高めること,また,最大の流体圧に対する岩石強度を下げることによって,水圧破砕が起こる条件を探る.無次元数で定義される相空間において,体積変化と水圧とのどちらが支配的になるかを明らかにし,また、それについての特徴的なフラクチャーパターンを抽出する.また,天然や実験による変成岩・蛇紋岩のフラクチャーパターンと比較する. 3. 差応力下,または複雑な地形におけるき裂パターン より天然に近い条件である,差応力がかかった場合,また,境界条件としての地形(海底地形など)が,反応とフラクチャー形成にどのような影響を与えるかを明らかにする.最終的に,沈み込むプレートが脱水し,ウェッジマントルが加水するプレートの沈み込み境界のモデリングにチャレンジする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では,基本的な破壊-流体流動-反応のモデルを構築し,それを離散要素法として実装することに多くの時間がかけたために,計算費用や,シミュレーションと対応されるための実験,天然試料の採取などの費用が予想よりも少なく,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,集中して計算させるための解析用HPCリモートサービスに主に使用する(区分:その他)予定である(1050,000円).さらに,反応-破壊実験のための消耗品(547531円),および天然試料の採取,研究成果発表などの旅費を必要とする(300,000円).
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