研究課題/領域番号 |
26610172
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐久間 博 独立行政法人物質・材料研究機構, 環境再生材料ユニット, 主任研究員 (20400426)
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研究分担者 |
市來 雅啓 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80359182)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地殻流体 / 電気伝導度 / 比抵抗 / 二酸化炭素 / 水 / 超臨界 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
本研究では(1)超臨界状態にある二酸化炭素(CO2)を取り扱う最先端の分子動力学(MD)計算法の開発、(2)地殻の温度圧力条件における超臨界H2O-CO2-NaCl流体の物性データベースを構築、(3)地震の震源域や火山活動の中心部の流体分布の推定から、地殻流体と地震発生との関連を解明することを目標とする。 本年度は、(1)超臨界CO2流体の原子間相互作用モデルの開発、(2)超臨界H2O-NaCl流体の物性データに基づく地殻内の流体分布の導出の2つの課題について研究を実施した。以下に各課題について本年度の実績を述べる。 (1)超臨界CO2流体の原子間相互作用モデルの開発:文献調査・関連する研究者との議論を実施し、化学反応を取り入れることのできる分子間相互作用モデルの有用性について検討した。 (2)超臨界H2O-NaCl流体の物性データに基づく地殻内の流体分布の導出: 673-2000 K, 0.2-2.0 GPa, 0-22 wt% NaClの範囲のH2O-NaCl流体の密度・等温圧縮率をMD計算から予測した。計算結果を過去の低温・低圧・低塩濃度の実験結果・熱力学計算と比較し、計算結果の妥当性を検討した。また実験結果がない温度・圧力・塩濃度領域の密度・等温圧縮率をMD計算から予測し、その変化を分子論的描像から解釈した。これらの結果は地震波解析に必要なパラメータを提供することとなり、流体分布の解明に寄与する。本成果を学術雑誌Geofluidsに報告した。またMD計算から得られた電気伝導度・密度の結果を、地球表層から深部に至る3つの温度・圧力変化モデルに対してプロットし、電磁気観測の結果との比較を実施した。この結果に関する投稿論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)超臨界CO2流体の原子間相互作用モデルの開発:過去に提案されたCO2の原子間相互作用モデルは、超臨界CO2を扱うには難しいことが徐々に明らかになりつつあるが、まだ結論が出ていない。本年度中に結論を出すことが目的であったことから、CO2原子間相互作用モデルの開発に関してはやや計画から遅れている。計算環境について、厳密な温度制御法の導入等のプログラム開発を実施し、CO2流体の計算を実施する準備を行った。 (2)超臨界H2O-NaCl流体の物性データに基づく地殻内の流体分布の導出:地殻内のH2O-NaCl流体分布の推定に必要な密度・等温圧縮率・電気伝導度のMD計算結果を解析し、地殻の電磁気観測により発見されている2桁の電気伝導度変化をH2O-NaCl流体のみで説明できるか検討した。これらの成果の一部はすでに学術雑誌に報告し、またもう一つの論文として投稿準備中であり、計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はH2O-CO2流体をMD計算で取り扱うため、やや研究計画から遅れているCO2モデルの開発を中心に研究を進める。本年度から古典MD計算を実施するための計算機の整備・計算プログラムの開発を進めており、効率的に研究を推進する環境が整いつつある。本年度は研究分担者とメール・電話での議論をするとともに、東北大学で研究打ち合わせを行った。今後はさらに効果的に研究を推進するため、年2回直接顔を合わせて研究議論を実施する予定である。特に、地殻内電磁気観測との比較においては、電磁気観測を専門とする研究分担者との議論が重要である。 H2O-NaCl流体の電気伝導度に関しては、地殻流体の分布のモデル化に利用されるよう早急に成果を学術論文として報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関してはCO2超臨界流体のモデル開発やH2O-NaCl流体での電気伝導度構造の解釈に多くの計算を行う予定であったが、議論・解釈に時間を費やし、計算機を用いて定量的に行う部分は次年度に持ち越しとなった。 研究打ち合わせは代表研究者である佐久間博士が東北大を訪問することになり、分担者の打ち合わせ旅費は来年度に使用することで代表と分担研究者の間で相談の上計画を変更した。また議論の末得られた結果に関しては定性的な解釈や文献調査で新たな結果が出るなどで時間を費やし、見通しを得ることがずれ込んだため、成果発表が秋の学会に間に合わなかった。それに伴い、来年度の関連する学会で成果発表することにし、本年度の予算を繰り越して来年度直ぐに使用することにした。 その他の費用に関しては論文投稿が次年度に持越しになった部分について、論文投稿料を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
CO2超臨界流体のモデル開発を促進するため、計算に必要となる計算機の整備やコンパイラの購入を予定している。旅費は、本年度で成果発表が間に合わなかった分について、次年度5月の地球惑星科学連合大会等の学会で発表に使用すること、また研究打合せに使用することを計画している。アメリカ地球物理連合の学術誌に成果を報告するための投稿料としての費用を計上している。
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