研究課題
オマーンオフィオライト北部のフィズ岩体のマントルセクションでは,モホ面よりも基底部付近で酸素フガシティが低い,すなわち基底部でより還元的となるという予察結果が得られている。オマーンオフィオライトでは沈み込み帯のマントルウェッジに相当するマントルかんらん岩と沈み込みスラブに相当するメタモルフィックソールの角閃岩類が基底衝上断層を介して直接接している。このオマーンオフィオライトを例として,沈み込みスラブ上面のマントルウェッジが還元的になる要因について解明することを本研究の目的としている。今年度は予察的研究で明らかになった酸素フガシティが高い地域と低い地域の特徴について,現地にて地質調査を行った。その結果,酸素フガシティが高い地域には数十メートル規模の比較的大規模なダナイトが分布することが明らかになった。また,酸素フガシティが低い地域は,マントルセクション内の他地域に比較して,斜方輝石岩に富む傾向が認められた。これらの斜方輝石岩は,マントルセクション基底部のかんらん岩とシリカに富んだメルトとの反応の結果生じた可能性が考えられる。シリカに富んだメルトはマントルセクションの下に沈み込んだスラブ上面の堆積岩が溶融して生じたメルトの可能性が考えられる。実際に堆積物由来のメルトの指標 であるTh/Ce比の高いかんらん岩がマントルセクションの基底部に存在することも,単斜輝石の微量元素組成から明らかになった。今後は酸素フガシティのプロキシとされる化学組成を用いて,酸素フガシティのマントルセクション内の空間分布に対する沈み込みスラブ物質の寄与の度合いを検討する。また,カンラン石中の流体包有物における炭素の化学形態をレーザーラマン分光法で解析し,酸素フガシティーとの対応についても検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度はオマーンオフィオライト北部のフィズ岩体のマントルセクションの地質調査を実施した。これまでの調査で得られた岩石試料の解析から酸素フガシティーが相対的に高い地域と低い地域が得られている。そこで,それぞれの地域の野外観察をより詳しく行い,それぞれの地域の岩相における特徴を把握した。酸素フガシティーが相対的に高い地域はモホ面の近傍にあり,数十メートル規模のダナイトが発達している様子が観察された。フィズ岩体北部の高枯渇帯の先端部にほぼ一致することも明らかになった。一方,酸素フガシティーが相対的に低い地域はマントルセクションの基底部付近にあり,他の地域に比較すると相対的に脈状の斜方輝石岩が多く存在することが明らかとなった。このことは,基底部から浸透したシリカに富むメルトとかんらん岩の反応による斜方輝石岩の形成の可能性を示唆しており,マントルセクション基底部でより還元的となる要因と関連する可能性が考えられる。
オマーンオフィオライトのマントルセクションの酸素フガシティの分布を検証するためにメスバウアー分光法でスピネルの二価鉄と三価鉄の割合を求める。分析する試料はスピネルのEPMAの分析値から求めた酸素フガシティーの値を広くカバーするように選定する。スピネルのCr#も広い範囲をカバーするように心がける。EPMAの分析値とスピネルのストイキオメトリ―から計算した二価鉄と三価鉄の比と,メスバウアー分光法による二価鉄と三価鉄の比を比較し,系統的なずれの有無について検証する。もし系統的なずれがあるときは酸素フガシティーの計算に用いるスピネルの二価鉄と三価鉄の比を補正し,酸素フガシティーの再計算を行なう。この結果が酸素フガシティの分布に与える影響についてさらに検討する。次に,全岩と単斜輝石の微量元素の存在度を四重極型ICP-MSとレーザーアブレーション装置を用いて測定し,酸素フガシティーのプロキシとされる化学組成や堆積物由来のメルトの指標となる元素比を用いて酸素フガシティの空間分布に対する沈み込んだ堆積物に由来するメルトの寄与の度合を検討する。同時に,オマーンオフィオライトのカンラン石中の流体包有物における炭素の化学形態をレーザーラマン分光法で解析し,酸素フガシティーとの対応関係を検討する。さらに,炭素同位体比を解析し,流体包有物に含まれる炭素の起源の検討も開始する予定である。
3月分の謝金および消耗品購入費の支払いが次年度4月になったため残額が生じているが,実質的に3月末における残額はゼロとなっている。
すでに今年度中に使用済みであり,次年度に執行する予定はない。
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Tectonophysics
巻: 650 ページ: 53-64
doi.10.1016/j.tecto.2014.12.004
Geological Society, London, Special Publications
巻: 392 ページ: 229-246
doi.10.1144/SP392.12