研究課題
オマーンオフィオライト北部のFizh岩体を用いて,沈み込み帯のマントルウェッジの酸化還元状態の傾向とその要因について検討している。マントルセクションのかんらん岩のカンラン石とスピネルの化学組成からBallhaus et al. (1991) の計算式を用いたΔlog fO2 (FMQ)の分布では,Fizh岩体東部のモホ面側でより酸化的に,西部の基底スラスト面側でより還元的となる。今年度もFizh岩体の地質調査を行い,追加の岩石試料を採取した。EPMA分析とストイキオメトリーによるスピネルの二価鉄と三価鉄の比をメスバウアー分析による結果と比較したところ両者に有意の差は認められず,Δlog fO2 (FMQ) の計算結果に与える影響は限定的であることが分かった。酸素フガシティーに敏感なバナジウムと化学的挙動の類似するスカンジウムとの比を酸素フガシティーのプロキシとして捉え,Δlog fO2 (FMQ)との関係を検討した結果,V/Sc比が減少する還元的な試料ほどΔlog fO2 (FMQ) は低く,反対にV/Sc比が増加する酸化的な試料ほどΔlog fO2 (FMQ) は高くなるような負の相関が認められた。この結果からもマントルセクション最下部がマントルセクション上部よりも還元的なことが確かめられた。基底スラスト面付近のΔlog fO2 (FMQ) 値の低い試料は,全岩および単斜輝石でともに比較的高いTh/Ce比を持つ。高いTh/Ce比は海洋性堆積物の寄与を示す特徴の一つであり,それらの影響が示唆される。Fizh岩体マントルセクションの最下部が還元的となる要因として,沈み込んだ還元的な堆積物の溶融で生じた還元的なメルトとの反応が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度はBallhaus et al. (1991)の方法で求めた酸素フガシティーの値の精度をメスバウアー分光法で検証し,オマーンオフィオライトマントルセクションから見た沈み込み帯のスラブ上面のマントルウェッジが還元的で,地殻に向かうにつれてより酸化的になることを確かめた。また,酸素フガシティーのプロキシとされる化学組成(V/Sc比)や堆積物由来のメルトの指標 (Th/Ce比など) を用いてΔlog fO2(FMQ)の空間分布に対する沈み込みスラブ物質の寄与の度合いも検討し,上記の方法で求めた酸素フガシティーの分布と同様の結果を得ることができた。これらのことからおおむね順調に進展していると判断した。
マントルセクションのかんらん岩のかんらん石中に包有される流体包有物のラマンスペクトルを測定する。酸素フガシティーが低くなると,炭素は一酸化炭素,メタン,グラファイトとしても存在するようになる。そこで,オマーンオフィオライトの酸素フガシティーと流体包有物に含まれる炭素の形態を検証する。さらに,かんらん岩の流体包有物に含まれる炭素の安定同位体組成を測定し,炭素の起源を検討する。分析結果をもとに,炭素の起源について生物起源,マントル起源等の検討を行う。オマーンオフィオライトの衝上の過程で海洋性堆積物がメルトの供給に関与し,その還元的なメルトがマントルウェッジの下部から浸透し,周囲のかんらん岩をより還元的にさせた可能性について考察する。これらの結果を,国内および国際学会で発表し,論文として国際誌に投稿する予定である。
次年度が最終年度であり,論文の投稿にかかる経費や学会参加費などの経費がかかることが予想されるために,当該年度の所要額の12%を次年度に使用することを計画したため。
研究成果の論文への投稿にかかる経費や学会参加費および論文執筆や化学分析に必要な備品と消耗品の購入に使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Tectonophysics
巻: 650 ページ: 53-64
doi.10.1016/j.tecto.2014.12.004
Geochimica et Cosmochimica Acta
巻: 164 ページ: 318-332
doi.10.1016/j.gca.2015.05.006