研究課題
本研究は,オマーンオフィオライト北部フィズ岩体のマントルセクションを対象に,マントルウェッジにおける酸化的な流体と還元的な堆積物メルトの挙動を探ることを試みた。オマーンオフィオライトのマントルセクションは,基底部の衝上断層を隔てて下位の海洋地殻由来のメタモルフィックソールと接しており,マントルウェッジが沈み込むスラブの上面と直接接している稀有な例である。まず,マントルセクションのかんらん岩に含まれるカンラン石とスピネルの化学組成からΔlog fO2 (FMQ)を算出した。Fizh岩体におけるΔlog fO2 (FMQ)の空間分布は,モホ面側でより酸化的に,基底スラスト面側でより還元的となった。すなわち,マントルウェッジ最下部が最も還元的である。酸素フガシティーのプロキシとされる元素比をもちいて,酸化還元状態の全岩組成への影響を検討した。全岩V/Sc比は Δlog fO2 (FMQ)との間に負の相関を示し,とけ残りかんらん岩のV/Sc比がより還元的環境で高くなる予想と一致した。同様に,全岩Zn / Fe比とΔlogfO2(FMQ)との間に正の相関が認められ,とけ残りかんらん岩のZn / Fe比はより酸化的環境では高くなる予想と一致した。すなわち,かんらん岩の全岩組成変化は,酸化還元状態の影響を強く受けていたことが明らかとなった。基底スラスト面付近のΔlog fO2 (FMQ)値の低い試料は,全岩および単斜輝石でともに比較的高いTh/Ce比を持つ。高いTh/Ce比は海洋性堆積物の寄与を示す特徴の一つであり,還元的なメルトとの反応の可能性を支持する。すなわち,オマーンオフィオライトはその衝上の過程で還元的な海洋性堆積物由来のメルトがマントルウェッジの下面から浸透し,基底部のかんらん岩をより還元的にしたものと考えられる。
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