研究課題
本研究では、火山噴火予知、地震予知に寄与することを視野に入れた、火山ガスや地下水のヘリウム同位体比測定装置の開発を目的とする。本年度は既存の単収束磁場型小型質量分析計に改良を施し、長期にわたり安定したヘリウム同位体比分析を可能にすることを目指した。本研究で改良を施す装置は、申請者らが独自に開発した、軌道半径10 cm、偏向角90°の小型の単収束磁場型質量分析計であるが、その軌道半径の小ささ故にわずかな偏向磁場の揺らぎが3He のピーク位置に大きく影響し、長時間の測定における安定度を大きく損ねることが問題となっていた。そこでまず、高直線性ホール素子の出力を高分解能で読み出し、フィードバック出力を与えるための最新のガウスメータ(LakeShore 製DSP ガウスメータ475 型)を導入し、磁場制御の安定化をはかった。さらに磁場発生用の電磁石の磁性ヒステリシスに起因するピーク位置の不安定性を解消するために、ピーク位置の細かい制御を磁場ではなくイオン加速電圧により行うこととし、そのためにPC からGP-IB 制御が可能な直流高圧電源(松定プレシジョン製HER-20N15-LG)を導入した。これらに加えイオン源の更新などを行ったため、本研究期間内に本装置の十分な性能評価と実用運転はできなかったが、草津白根火山周辺の噴気や温泉ガスの予備調査を行い、次年度以降の定点観測の候補地を決定するための予察的なデータを別の希ガス質量分析計を用いて得た。また富士山周辺50 kmを網羅する温泉のヘリウム同位体比マップと、地球物理探査により得られた地下比抵抗構造との対応を解析し、深部からのマグマ起源ガスの供給が南西部の温泉に顕著に見られることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
詳細な性能評価は未だ完了していないものの、本年度の目標であった小型希ガス質量分析計の改造はおおむね終了している。ガスないし水試料からガスを抽出し、必要最低限の処理で質量分析計に導入可能なレベルまでヘリウムを精製するための抽出ラインの準備も整っていることから、質量分析計が本格稼働すれば高いスループットで温泉ガス等のヘリウム同位体比分析が可能になると期待される。
可能な限り早くに上記の分析システムを実用化し、昨年度までの調査結果を踏まえて選定した温泉や噴気における、富士山と草津白根火山における定期的なサンプリングとヘリウム同位体比分析を行う。昨年度に都合により実施できなかった、伊豆大島火山山麓の観測用蒸気井における定期サンプリングも開始する。並行してPCから制御可能な電磁バルブの導入と、それを用いた半自動測定システムの構築を試みる。
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Bulletin of Volcanology
巻: 76 ページ: -
10.1007/s00445-014-0882-y
Journal of Volcanology and Geothermal Research
巻: 270 ページ: 90-98
10.1016/j.jvolgeores.2013.11.017