研究実績の概要 |
本研究では、火山噴火予知、地震予知に寄与することを視野に入れた、火山ガスや地下水のヘリウム同位体比測定装置の開発を目的とする。本年度は昨年改良を施した単収束磁場型小型質量分析計に、ガスないし水試料からガスを抽出し、必要最低限の処理で質量分析計に導入可能なレベルまでヘリウムを精製するための抽出ラインを接続し、高いスループットで温泉ガス等のヘリウム同位体比分析を行うシステムを構築する予定であった。しかし本年度はじめの研究代表者の所属部局の異動に伴い、本研究に用いる装置一式を、東京大学本郷キャンパスから同駒場キャンパスへ平成27年7月に移設したため、予定通り分析システムの構築が進んでおらず、富士山周辺と伊豆大島における定点観測も実施できていない。しかし昨年度に引き続き、草津白根火山周辺の噴気や温泉ガスの予察的分析を別の希ガス質量分析計を用いて行い、平成26年6月に火山活動が活発化し噴火警戒レベルが2(湯釜火口から1km以内立入規制)に引き上げられた後も、殺生河原噴気などのヘリウム同位体比は過去の報告値(Sano et al. 1994, Applied Geochemistry, 9, 371-377)とほぼ変わらず、マグマ起源ヘリウムの寄与が増えるなどの変化はないことが明らかとなった。このことは警戒レベルの引き上げ以降も、それ以上の活発化が起こっていないことと調和的である。また昨年度までに明らかにした、富士山周辺の温泉のヘリウム・炭素同位体比マップと比抵抗構造から、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震による振動で富士山地下の破砕帯中のマグマ起源ガスが移動し、それにより高まった間隙圧による岩石破壊が引き金となり、同3月15日の富士山麓地震(Mw5.9)が起こったという新たな地震誘発モデルを提案した(Aizawa & Sumino et al., 2016, Geology, 44, 127-130)。
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