研究実績の概要 |
本研究では、火山噴火予知、地震予知に寄与することを視野に入れた、火山ガスや地下水のヘリウム同位体比測定装置の開発を目的とする。本年度は前年度までに改良を施した単収束磁場型小型質量分析計に、ガスないし水試料からガスを抽出し、必要最低限の処理で質量分析計に導入可能なレベルまでヘリウムを精製するための抽出ラインを接続し、高いスループットで温泉ガス等のヘリウム同位体比分析を行うシステムを構築した。その性能評価も兼ねて、伊豆大島火山において蒸気井ガスならびに温泉ガスの採取と分析を行った。その結果、(1) 前回1986年からの噴火活動に伴うマグマ起源ヘリウムの寄与の増加のために上昇し、噴火活動の終息とともに減少に転じた蒸気井のヘリウム同位体比(Sano et al., 1991, Earth Planet. Sci. Lett. 107, 95-100)は、現在は噴火前のレベルに落ち着いていること、(2) 島内各所の温泉ガスは依然として高いヘリウム同位体比を示し、ヘリウム/ネオン比を指標に大気の混入を補正したヘリウム同位体比は、噴火当時の値と変わっていない、すなわちマグマ起源ヘリウムの同位体比は噴火後30年を経ても変化していないことが明らかになった。 伊豆大島火山はこれまで約30年周期で噴火していることから、近い将来次の噴火活動が始まると懸念されており、今後も定期的に観測を継続していく必要がある。また草津白根火山においては前年度に引き続き噴気及び温泉ガスの採取と分析を行い、各地点におけるヘリウム同位体比には経年変化が見られないことと、今回新たに採取した、より火口から遠距離にある温泉では、熱とともにマグマ起源ヘリウムが地下水に加わってから、地表への湧出に至るまでに混入した地殻起源ヘリウムの付加により、火口付近の噴気や温泉ガスに比べヘリウム同位体比が低くなっていることが確かめられた。
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