研究課題/領域番号 |
26610190
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤塚 洋 東京工業大学, 原子炉工学研究所, 准教授 (50231808)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ダイバータプラズマ / 核融合炉周辺領域 / 水素・窒素混合プラズマ / 原子分子過程 / 非平衡性 |
研究実績の概要 |
実験研究として、超音速プラズマジェット発生装置を利用し、大気圧定常アーク放電で得た水素、重水素、ヘリウム、及びそれらの混合気体プラズマを、陽極ノズルから弱い縦磁場下の低圧風洞中に定常噴出することで低温高密度プラズマを生成した。この装置の上流~下流の各領域において、窒素ガスパフを行い、窒素ガスの流量・背圧等を制御し、得られるプラズマパラメータの変化を空間分解計測した。計測では、電子温度、電子密度、空間電位を数mm程度の間隔で測定し、またマッハプローブにより流速計測を実施した。さらに、発光分光計測により、各励起状態数密度の空間分解計測を実施した。こうしたプローブ計測や発光分光計測を、各種の放電条件や磁場強度、ガス流量、水素・ヘリウム組成比、あるいは窒素流量の関数として系統的に実験検討した。 一方理論的数値シミュレーションとして、衝突輻射モデルの改良を行なった。窒素分子の電子基底X状態の振動励起状態数密度分布、電子励起状態密度分布(CRモデルによる)、そしてEEDFを決定するBoltzmann方程式を連立してSelf-Consistentに解き、定常非平衡状態の励起状態生成消滅のカイネティックスの定量的理解に努めた。CRモデル等に現れるレート係数はEEDFに依存するものとして解析を行なった。また、励起状態の空間分布形状を実験により正しく求めることで、非発光種の空間分布についても考察を行ない、線スペクトルあるいはバンドスペクトル輻射の再吸収に関するオプティカル・エスケープファクター(OEF)をモデルに取り込み、励起状態密度の時間空間変化を検討し、本研究の実験結果を再現できるようなモデルの構築に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁場閉込核融合炉の周辺領域プラズマに窒素ガスを導入して、効率的に周辺プラズマから輻射除熱を行なうことを想定し、次のような基礎研究を実施することが最終目的である。すなわち直線型プラズマジェット生成装置を利用して超音速で流れる低温高密度の水素・重水素・ヘリウムプラズマを生成し、下流域での窒素ガスパフにより(重)水素・ヘリウム・窒素混合プラズマを実験室で生成し、分光特性を詳細に検討することである。これらについて、平成26年度中に、窒素も含めたアークジェットの生成実験を実施し、プラズマパラメータ変化を空間分解計測することができた。電子温度、電子密度、空間電位について空間分解で数mm 程度の精度で測定し、またマッハプローブにより流速計測を実施することができた。さらに、発光分光計測により、各励起状態数密度の空間分解計測を実施し、流れ方向の変化はもちろん、軸対称プラズマを生成しアーベルインバージョンにより径方向密度分布に至るまで、水素・重水素原子、ヘリウム原子、窒素原子の各原子種の励起状態数密度を求めることもできた。 また窒素分子・原子の水素・ヘリウムプラズマ混合下の励起状態生成消滅の原子分子過程を詳細に検討し、将来の磁場閉込核融合炉ダイバータでの輻射冷却のための工学設計指針を得るため、基礎データを取得する事も目的であるが、こちらについても、理論数値シミュレーションとして、電子温度(あるいはEEDF)および電子密度を入力条件として、励起状態生成消滅のカイネッティクスの検討と励起状態数密度変化を検討できた。衝突輻射モデルを改良し、振動励起状態数密度分布、電子励起状態密度分布(CR モデルによる)、そしてEEDF を決定するBoltzmann 方程式を連立してSelf-Consistent に解き、定常非平衡状態の励起状態生成消滅のカイネティックスを定量的に理解することが進展した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年度目は理論シミュレーションを中心に研究を進めるが、必要に応じて追加実験を行う。2年度目の主たる目標は、窒素ガスパフによるプラズマの非平衡なエネルギーの緩和プロセスを定量的に理解し、線スペクトル・バンドスペクトル放射によるプラズマの輻射損失変化を記述するにあたりスケールアップに耐えるようなモデルを構築する事にある。 特に、プラズマ中での輻射損失を評価するにあたり、光学的厚さ、すなわちプラズマ自体による再吸収の程度を評価する事が必要である。本研究では再吸収の程度をOEFとして含め、励起状態密度の時間空間変化を検討するに止める。時間空間依存のEEDFの変化と、励起状態の生成消滅(分子の振動回転含む)をSelf-Consistentに求める様にモデルを改造し、各種の初期状態(上流部のプラズマ条件)のもとでの窒素ガスパフによるプラズマのエネルギー緩和過程を正しく評価できるようなモデルの構築に努める。非平衡アルゴンプラズマのEEDFのヘリウムガスパフによる緩和過程を素過程ベースで評価した実績に基づいて、窒素原子分子の素過程を丁寧にモデル化する事で、実験結果の再現に迫る。EEDFの非平衡性、OEFを取り込み、精緻な励起状態の生成消滅モデルを構成する。 最終的に、構築したモデルを用いて、ITERクラスあるいはそれ以上のスペックの核融合ダイバータプラズマにおける窒素ガスの放射冷却性能や,MARSも含めた熱流束低減効果の評価を試み、将来のスケールアップ時の設計基本指針を与えるべく、研究成果の総括を行なう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
電気関係消耗品が当初予定より若干安く購入できたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
電気関係消耗品の購入費に充てる。
|