現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画では,(1) PIG放電プラズマ源と(2)メゾ多孔性Ni加熱保持部の製作を予定していた.また,水素正イオンの照射実験として,具体的には(3)多孔体のバルク温度, (4)正イオンの照射エネルギー, (5)照射電流密度, (6)照射積算時間を変化させて, (7)不純物の生成を予定していた. (1)については,直径4 cmの水素プラズマを数百時間安定して生成できるPIG放電プラズマ源を製作した.放電効率のよい条件も明らかにした.(2)については,Ni多孔体板への汚染を防ぎつつヒータ加熱でき,直径3 cmに水素正イオンを照射できる加熱保持部を製作した.ヒータ加熱電力による多孔体の温度特性を明らかにした.(3)については,水素正イオンを照射した場合にヒータ加熱の有無の違いによる温度を明らかにした.(4)については,200~700 eVの範囲で可変できることを確かめたが,エネルギーが高すぎるとNiがスパッタするため,300 eV程度に抑える必要性が分かった.(5)のついては,放電を無理すれば300 mA程度まで増加できるが,フィラメント寿命が短くなることが予想されるため,200 mA程度が妥当であると分かった.(6)については,断続的であるが100時間以上水素正イオン照射できることを確認した.なお,加熱によって不純物除去を行う過程で,Niの温度を上昇させていくとNi正イオンが生成されることを見出した.この熱電離現象は古くから既知の現象であるが,我々にとって想定外であり試験,調査に時間がかかったため,(7)については実施できなかった. 以上のように,予定していた通りの結果が得られたわけではないが,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度において,実験に必要な環境が整備され,適切な水素正イオン照射条件と多孔体体温度条件などが明らかになった.これを踏まえて,水素正イオンの照射に伴い,Ni以外の不純物が生成されるかどうかを調査する. 水素供給や正イオン照射する前に, 高真空中で多孔体板を加熱して, 付着している不純物をあらかじめ除去して, 触媒表面の活性化を促す.その上で多孔体板のバルク温度, 正イオン照射エネルギー, 照射電流密度, 照射積算時間を変化させて, 不純物の生成を行う.まずは,厚さ1 mm,気孔率96.6%の多孔体板を用いて実験を行う予定である. 放電により生成される正イオンは, H+以外に分子状正イオンH2+, H3+も生成される.そこで,これらの存在比率を明らかにするために,水素正イオンの質量分析を実施する.当初は四重極質量分析器で測定を行う予定にしていたが,正イオンのエネルギーが200 eV程度以上と高く,減速してもエネルギー幅が不明であることから,分析できるエネルギーに制限のある四重極質量分析器では不適切と考えられる.そこで,小型の電磁石コイルを用いた磁場偏向型の質量分析器を製作して,正イオン種の存在比率を明らかにする予定である. 多孔体板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しながら, エネルギー分散型X線分光法(EDX)によって元素分析を行う.金属内部で不純物が生成されている場合には表面分析で検出できないため,多孔体板を溶解後にICP発光分光分析によって元素分析を行う予定である.先行する研究においては,パウダー状のNiにおいて不純物の生成が見られるとのことなので,Ni多孔体板にNiパウダーを担持させて,水素正イオン照射実験を行う.
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