研究課題/領域番号 |
26620002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
真船 文隆 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (50262142)
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研究分担者 |
宮島 謙 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20365456)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 液相レーザーアブレーション / ナノ粒子 / ナノシリカ / 触媒 |
研究実績の概要 |
液相レーザー蒸発法を用いて、液体中にサブナノメートルスケールの粒子を安定に生成することを目的としている。本手法は、界面活性剤などのいわゆる化学的な保護剤を用いない点が新規である。一般には、液相中の粒子は凝集・会合によって成長して、より大きな粒子となる傾向がある。成長を防ぐために保護剤は必須であるが、一方、最終生成物を触媒などに用いるときに、表面を覆う保護剤が触媒としての活性を落としてしまう可能性が高い。活性を落とさずに、かつ成長を防ぐという観点から、本研究では、水溶液中に分散している10 nm程度の大きさのシリカ(ナノシリカ)を担持剤として用いた。液相レーザー蒸発法によって生成する一次粒子をシリカの表面で捕捉し、それ以上の成長を抑えることに成功している。 平成27年度は、ロジウムに着目して、サブナノメートルスケール粒子の生成を試みた。ナノシリカを含む水の分散液の中にロジウムの薄板をターゲットとして置き、これに対して1064 nmのNd:YAGレーザーの基本波を照射して、粒子の生成を分散液の吸収スペクトル(消失スペクトル)の変化より確認した。また、このようにして生成した粒子の一酸化窒素NOに対する触媒活性を測定した。NO還元能の温度依存性からは、化学的に合成したナノ粒子とほぼ変わらない活性を示すことがわかった。また、ロジウムに似た電子状態をもつモリブデン合金についても、同様に粒子の合成を試みた。その結果、合金粒子は生成するが、時間の経過に伴い、モリブデンが酸化されてイオンとして溶出することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
液相レーザー蒸発法は、液相中にナノ粒子を生成する物理的な手法として、きわめて汎用な方法といえるが、生成したナノ粒子の安定性に関しては、元素によって3通りに分類することができることがわかった。金のように、それ自身が電荷を持つものは、純水中でも安定に存在する。ニッケルやコバルトなどは、純水中では成長して沈殿するために、安定化には保護剤が必要である。モリブデンなど酸化されやすい金属は、酸化されてイオンとして溶出する。これらのうちで、安定化に保護剤を必要とする元素はナノシリカを担持剤として用いるのが有効であることがわかった。一方、金の場合は、ナノシリカの有無にかかわらずナノ粒子が生成してしまうので、ナノシリカの捕捉効果は見られなかった。 一方、ターゲットを合金化すれば、合金のナノ粒子が比較的容易に生成できることもわかった。本研究では、触媒として使用可能な粒子の合成を目指しており、そのためにも多様な合金粒子を簡便に作成できるのはメリットが大きいと考えられる。また、ナノシリカは紫外~可視領域で光学的に透明であることから、ある程度吸収スペクトルで粒子のキャラクタリゼーションが可能であることもわかった。本来は、暗視野の電子顕微鏡像の撮影がサブナノメートル粒子の確認には必須であるが、簡単に測定できる環境にないのは否定できない。 現在これらの試行錯誤を続けている段階ではあるが、3年間の研究期間の中で、様々な元素に対する有効性が明らかになっており、進捗状況としては順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況でも述べた通り、液相レーザー蒸発法で生成したナノ粒子の安定性に関しては、元素によって3通りに分類することができる。金のように、純水中でそれ自身が電荷を持つものは、ナノシリカの有無にかかわらず粒子が生成してしまうので、ナノシリカの捕捉効果は見られなかった。このような元素に対しては溶媒の効果を検証する。炭化水素溶媒中では、金の粒子は速やかに凝集することがわかっているので、ナノシリカの捕捉効果が期待される。一方、モリブデンのような酸化されやすい金属に対しては、アルコールなどの還元性のある溶媒を用いて、酸化を防ぐことができるかを調べる。 合金粒子に関しては、ターゲット自体に合金あるいは固溶体を用いることが有効であることがわかっている。現在合金ターゲットの調整法の確立を進めているところで、融点が1100℃以下であれば、複合材料を作成できると考えている。 このように、単元素系に対しては、溶媒の効果を明らかにしつつ、多元素系に対しては多くの複合材料を作成し、その触媒活性を調べる予定である。
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