研究課題/領域番号 |
26620004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菱川 明栄 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50262100)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強レーザー場 / 微粒子 / 顕微ラマン分光 / アモルファスカーボン |
研究実績の概要 |
不純物の影響を最小限に抑えるために,ガラスチューブを内側に備えた円筒形超高真空ガスセルを新たに製作し,十分に高温でベークした後にエチレンガス(1 atm)を導入した。チタンサファイアレーザー再生増幅器からの出力レーザー光(中心波長800nm,パルス幅50 fs,出力0.64-1.36W,繰返周波数 1kHz)を凸レンズを用いてセル内に集光しフィラメントを発生させた。レーザー光を8時間照射した後に得られた生成物を回収し,新たに構築した顕微ラマン分光計測系を用いてラマンスペクトルの測定を行った。得られたサンプルの顕微像には,様々な形状をもつ粒径数umの微粒子が観測され,強レーザー場における気体分子の多体反応により微粒子が生成したことが示された。生成物は無色透明でポリエチレンの生成が示唆されたが,1300―1800 cm-1に幅の広いピークがラマンスペクトルに観測されたことから,この微粒子を水素化アモルファスカーボンに帰属した。高いレーザー強度(1.36 W)においては,微粒子が濃い黄色に変化すると主に,ラマンスペクトルも低波数側にシフトした。アモルファスカーボンにおいては,ピークの低波数シフトはsp2/sp3比の増大に対応していることから,レーザー出力の増大によってsp2カーボンを多く含む微粒子の生成促進が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,特にフィラメントによる微粒子形成が確認された炭化水素をモデル系として研究を行い,フェムト秒強レーザーパルスを集光して得られるレーザーフィラメントにおける微粒子形成過程を明らかにすることを目的としている。本年度は,エチレンをサンプルとして顕微ラマン分光を行い,その理解を目指した。不純物の影響を些少源にとどめるための2重構造ガラスセル,および顕微ラマン分光計測系の立ち上げを迅速に行い,生成物の同定とそのレーザー場強度への依存性を短期間で明らかにすることが出きている。研究全体としておおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はそれぞれの微粒子についてラマンスペクトルの測定を行い,その大きさ,形状とsp2/sp3比の関係について調べるとともに,強レーザーパルスの強度,パルス幅とパルス内での波長変化(=チャープ),中心波長など,より広いレーザーパラメータ空間の探索を行う。また,ベンゼンなど芳香族性を有するサンプルを標的として用い,反応生成物が十分に回収できた場合は,顕微ラマン分光と合わせてGCEI, MALDI, TEM等を用いて分析し,併せて反応メカニズムを検討する。2分子反応の前駆体であると予想される高い電子状態にある分子やラジカル分子においては多くの電子状態が密接して存在し,強いレーザーパルスによって電子遷移や核間ポテンシャル変形が効率よく起こることが予想される。反応生成物からのスペクトルをモニターしながら,レーザーパラメータを変化させることによって,2分子反応の制御可能性を明らかにすることを試みる。また,微粒子生成過程のその場観測のために,コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)計測も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たに作成した円筒形高真空ガスセルを用いることによって,微粒子の大量合成と迅速な回収ができることが明らかとなった。このため,本年度はまず生成物の帰属とレーザー場強度による変化の理解を優先して進め,この結果を踏まえて「その場」観測に必要な計測手法を検討することとした。このため新たな計測系の導入に当てる経費が次年度に持ち越しになった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の結果を踏まえて,レーザーフィラメントによる微粒子生成過程をその場観測するための計測系の構築を行う。特にフェムト秒レーザー光を用いたコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)計測の導入を検討し,これに必要な光学系の購入を行う。
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