最終年度の成果は以下の3つである.①光熱変換を用いた超高速ダイナミクス観測システムの構築 光熱変換による時間分解計測のため,液晶変調素子を用いた2次元分光システムを構築した.これは,極短パルス光を4つのパルス列に変換し,その時間間隔と位相を制御しながら試料に照射し,発生する発光などの励起状態の占有数に比例した信号を計測することで,フォトンエコーや2次元電子分光を行うものである.励起状態の占有数に比例した信号として,試料から発生する熱を検出する方法を採用することにした.その前段階として,試料からの発光を検出する2次元電子分光システムを構築し,溶液中の有機分子に対して適用して,システムの有用性を確かめた.次に,同じシステムを誘起蒸着膜に適用し,検出として,発光の代わりに試料の発熱により引き起こされる音響信号を検出するシステムを構築した.小型マイクロフォンにより,レーザー照射で誘起された音響信号を検出し,2次元電子分光を行い,有機固体の2次元電子スペクトルの取得に成功した. ②アルカリ原子をインターカレートしたグラフェンのプラズモン応答 前年度イリジウム基板上のグラフェンにセシウムを層間挿入した系で,巨大光学応答が起きることを見出したが,この応答の光入射角度依存性を調べることで,プラズモンの分散関係を明らかにした.モアレパターンによる運動量補償を考慮して乱雑位相近似によるグラフェンプラズモンの分散関係の理論と比較し,当該現象がグラフェンのTMモードによるものであるという確証を得た. ③テトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)の発光挙動の薄膜構造依存性 発光材料として知られるDBP蒸着膜の構造制御とその発光ダイナミクスの時間分解観測を行った.蒸着速度の制御により,結晶性を制御できることを原子間力顕微鏡により明らかにし,その励起状態ダイナミクスが,結晶性に大きく依存することを見出した.
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