研究課題
本研究の目的は、局在電子波束による新しい動的化学結合理論の確立を目指し、近似方法の検討と応用計算による検証を推進することにある。基盤となるのは、局在電子波束を原子価結合理論によりスピン結合させた独自のモデルである。この波束は、中心位置が浮動し、幅も可変であるという自由度を持つ。これにより、一電子あたり一波束の最小基底でありながら、高精度の基底状態ポテンシャルエネルギー面を与える。本課題では、この理論を時間依存ダイナミクスに拡張した。また、電子波束と原子核波束を融合させることにより、断熱近似を超えた化学結合理論を構築しつつある。この手法を、強光子場中の分子ダイナミクス、水素貯蔵金属クラスター中の水素拡散などに応用し、電子と原子核の量子動力学的結合の様相を解析する。 平成29年度は、主として次の2項目で進展があった。(1) 局在電子波束ダイナミクス計算に基づく高調波発生スペクトルの計算、(2) 金属クラスター中の水素拡散の量子シミュレーションに向けたポテンシャルモデルの開発。 (1)では、平均場近似に相当する一電子計算によって、各電子波束の中心位置の変位に沿ったポテンシャルエネルギー面を構築し、その上で数値的に厳密な量子ダイナミクス計算を行った。その結果、局在波束の準量子的ダイナミクス計算(昨年度実行)では記述できなかった高調波発生スペクトルのプラトーとカットオフを再現することができた。(2)では、PdクラスターとRh-Ag合金クラスターを比較しながら、多配置自己無撞着波動関数計算によって水素拡散の障壁超えポテンシャルエネルギー面を計算し、量子動力学シミュレーションのためのモデルポテンシャルを構築した。
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