研究課題/領域番号 |
26620009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
根来 誠 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (70611549)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | triplet-DNP / 動的核偏極 / NMR分光 / 安息香酸 / 重水素化 / パルス数値設計法 / 常温核偏極 / 室温超偏極 |
研究実績の概要 |
NMR分光やMRIの感度を向上させる方法として極低温を用いる動的核偏極が注目されており、申請者らは光励起三重項状態にある電子スピンを偏極源に用いる動的核偏極(triplet-DNP)によって、サンプルを室温に保ったまま極低温を用いる方法と同程度の核スピン高偏極化ならびにNMR感度向上を達成した。本研究の目的は、triplet-DNPで得られる感度をさらに向上できること、多くの物質に汎用性があることを示すことであり、この方法により高感度化した液状物質を人体に投与することで可能になる高感度MRIへの道を拓くことである。 より高磁場ではスピン格子緩和時間が長くなるためさらなる高偏極率が期待できるため、平成26年度では、より高磁場でtriplet-DNPが可能となる実験装置を開発した。また、偏極移動のための振動磁場パルスを数値的に設計するための方法を明らかにし、NMR実験によってその効果を実証した。 これまでtriplet-DNPによって高偏極化に成功したホスト物質としてはナフタレン、ターフェニル、ベンゾフェノンしかなく、これらは全て水に不溶な物質であった。平成26年度では安息香酸単結晶の水素核スピンを高偏極化することに成功した。さらに、安息香酸のカルボキシル基の水素を重水素に置換することで、水素核スピンのスピン格子緩和時間をのばして、さらなる高偏極化に成功した。安息香酸は水溶性であり、今後はこれを用いて高感度液体NMRの実現、高感度MRIの実現を目指していく。 また、光励起三重項状態を持つ分子とホスト物質の様々な組み合わせを試し、多くの物質を溶かし込むことが可能な組み合わせを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目指していた多くの物質を溶かし込むことが可能な分子の組み合わせを見出し、さらなる高偏極化を実現するためのパルスの数値設計法の実証を行い、より高磁場での実験装置を開発した。当初、固体から液体への偏極転写によって高偏極液体の生成を目指していたが、直接水溶性の物質の高偏極化に成功したため、平成27年度はこれにより高感度な液体NMRの実現を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、これまでに見出した光励起三重項状態を持つ分子とホスト物質の組み合わせに対し、第三の物質を溶かして、それが高偏極化可能であることを示す。作成した高磁場用実験装置、数値的に設計したパルスを用いて、さらなる高偏極化が可能であることを示す。さらに様々な実験、温度環境での実験を行い、最適な環境を探索する。可変してまた、計画を変更して高偏極化した固体試料を水に溶かして高感度液体NMRの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に寒剤を使用する実験の必要性が生じたため、その分の予算を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
寒剤費用として使う。
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