本申請では1000テスラー級の大きな磁束密度の中に置かれた分子の電子状態及び分子物性を計算することができる量子化学的方法を開発し、強磁場下における分子物性の発現や化学反応性の変化を予測する手段を構築することを目的としている。本研究で定めた目標は、(a)有限磁場で問題になる磁場の原点依存性(ゲージ原点依存性)の解消、(b)磁場の高次項の導入、(c)強磁場用の基底関数の開発、(d)相対論的ハミルトニアンを導入する方法であるDKH法に磁場項を含めるための理論的アイデアの試行、であった。以下に研究経過を述べる。 H26年度は、量子化学計算法の基礎とするために有限磁場のゲージ原点依存性の解消を目指した研究を進めた。相対論的方法であるDKH法では、ゲージ原点の依存性を消去するために通常に用いるGIAO法が厳密には成立しないため、その問題を回避するための近似法の開発を進めた。この研究は上述の(d)とも関連する。DKH法を使ったときにGIAO法に基づいてゲージ原点依存性を減らすための何段階かのレベルの近似的方法を提案し、それに対応する計算プログラムを開発して、各近似法の有効性を数値的に検証した。小さな分子では良好な結果を得た。しかし、分子のサイズなどによって近似の成立度合いが異なるため、GIAO法を実用的に使うことは困難であると判断した。この結果は2報の論文にまとめて発表している。別の対処方法として、局所化した分子軌道を使う方法の検討が必要であり、次年度に引き継いで研究を進める。 磁場の高次項を導入する計算プログラムを開発しテスト計算を実施している。これらに相対論補正を導入した。強磁場における物性値の変化については、積分計算プログラムの開発が必要であるので、引き続きプログラム開発を進める。
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