研究課題/領域番号 |
26620014
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
八ツ橋 知幸 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70305613)
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研究分担者 |
豊田 和男 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (60347482)
藤原 亮正 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10580334)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多価分子カチオン / 価数依存反応 / 高速質量選別器 / 高速高電圧電源 / 飛行時間型質量分析計 / フェムト秒レーザー / トンネルイオン化 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
1.高速質量選別器の設計・試作 質量数差が1のイオン同士を分離するため、高速応答が可能なBradbury Nielsen質量選別器(ワイヤ電極で構成)についての過去の報告を精査し、最適なワイヤ間隔およびワイヤ直径を決定すると共に、既存の飛行時間型質量分析計に取付けることのできる質量選別器の設計を行った。主な仕様は次の通りである。1) 既存のICF114のフランジに取付けるために電極部を小さくする(ボア径30 mm)。2) 予定の2倍の間隔(200 μm)のワイヤを張った電極同士を貼り合わせて間隔を100μmとする。3) イオンの飛行経路を妨害しないように電極を50 mm待避させる機構を付加する。4)高速高電圧パルスの仕様を出力電圧が正負2系統、立ち上がり15 ns、パルス幅40 nsとする。5)電源をフランジに取付けることで電源線を極力短くする。以上の設計を元に大阪市立大学内の工作技術センターに工作依頼を行った。 2.I-C≡C-Iのポテンシャルエネルギー曲面計算および解離過程の検討 ジヨードアセチレン多価カチオンについて量子化学計算を行った。計算に際してはCASSCF法、基底関数を6-311G*、Active Spaceを12個とし、ソフトウエアはGAMESSを用いた。まず、0価から5価までのそれぞれの多重度における平衡構造ならびにエネルギーを算出した。最低エネルギー状態は2価では三重項、3価では二重項、4価では一重項であった。一方、5価は平衡構造が存在しなかった。そこで、ICC部分を平衡構造のまま固定し、C-I結合を伸長した際のエネルギーおよび電荷分布を計算した。結合の伸長に伴い電荷が末端のヨウ素原子に局在化することが明らかになった。また、解離エネルギーを見積もる事が出来た。5価は解離ポテンシャルとなっており、実験で5価が観測されなかった事実を裏付ける結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に掲げた「1)カーブフィールド・リフレクトロンによる1~3価I-C≡C-Iイオンの寿命測定、2)高速質量選別器の設計と製作、3)4価I-C≡C-Iイオンおよび芳香族多価分子イオンの寿命測定、4)I-C≡C-Iのポテンシャルエネルギー曲面計算および解離過程の検討」のうち、2)についてはほぼ完了した。特に設計に関しては研究開始の早い段階で完了した。製作に際しては、特にワイヤを張る操作に関して試行錯誤が必要であった。この点に関して豊富な経験を有する大阪市立大学大学院工学研究科の菜嶋茂喜博士のご協力を仰いだ。また、部材の切削、研磨などに関しても試行錯誤が必要であった。完成したワイヤ電極の間隔についても測定を行ったが良好な標準偏差であった。4)についてもCASSCF法を用いて十分信頼できる結果を得ることが出来た。応募書類には密度凡関数法で計算した結果を記載した。密度凡関数法で計算した場合には5価イオンの平衡構造が得られたのに対し、CASSCF法で得られた5価のポテンシャルは解離型であった。密度凡関数法では多配置性を考慮していないため、基底状態の電子配置のみから平衡構造が得られたものと考えられる。一方、CASSCF法では励起状態の電子配置の寄与を考慮するため、実験結果を再現したといえる。一方、1)および3)については理学部学舎の新築および機器移設に際して多数の障害(排水・排気設備の未設置や最低天井高などの施工ミス、移設に際して発覚したレーザーを載せる光学定盤の不良(新品発注により4ケ月の遅れ)、新築校舎の高湿度対策の遅れ)が発生したためにレーザーおよび質量分析計の移設自体が遅れて実施には至っていない。現在はレーザーの移設が完了し、質量分析計の立ち上げを行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、「2)高速質量選別器の設計と製作」に関して、既存の飛行時間型質量分析計への取付けと性能評価を行う。具体的には、キセノンを対象として既存の板状電極(500 nsパルス)との比較を行う。フェムト秒レーザーイオン化によってキセノンは容易に6価までイオン化される。また、キセノンには同位体が7つあり、質量数差が1のイオン同士を分離するために必要な質量分析計の分解能の評価対象としては最適である。この際、ワイヤ間隔を変えた電極を2つ程度試験に供する。もし分解能が十分でない場合には次の対策を行う。1)Bradbury Nielsen質量選別器を2段構成にすることで、パルス幅は長くても高電圧の立ち上がり部分のみ高速な電源を使用することが出来る。2)電源を2台用いて1段目と2段目の質量分析計に印加する高電圧パルスに遅延を与えることで分解能の向上を図る。 次に、「4)I-C≡C-Iのポテンシャルエネルギー曲面計算および解離過程の検討」を完了するため、多重度の異なるポテンシャルの計算を行う。初年度は各価数の最低エネルギー状態の計算であったが、C-I結合長が伸長することで各電子配置の寄与度が変化することが明らかになっている。特に高価数のカチオンにおいて、結合伸長により高位の状態との断熱交差があることを示唆している。また、初年度の計算に際しては、ICCの配置を固定したが、これについても構造最適化したポテンシャルを算出し、安定性の議論をより明確なものとする。 さらに、性能評価を完了させたBradbury Nielsen質量選別器を用いて「1)カーブフィールド・リフレクトロンによる1~3価I-C≡C-Iイオンの寿命測定、3)4価I-C≡C-Iイオンおよび芳香族多価分子イオンの寿命測定」を行う予定である。そのため、より高圧力下で実験が行えるように既存の真空槽にゲートバルブを取付ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった計算に供するソフトウエアおよび装置については新オペレーティングソフトウエアに対応したものを次年度以降に購入すべきと判断したため。また、平成26年度に行った理論計算については、全原子の最適化を行う必要がなかったために既存のソフトウエアおよび装置を用いても(速度の面で若干の難点はあるものの)研究遂行自身には問題は生じなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27度予算と合わせ、新オペレーティングソフトウエアに対応したソフトウエアならびに装置を購入する。
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