研究実績の概要 |
本研究は、当初の計画通りには遂行できなかった。最大の計画違いは福島第一原子力発電所で発生した「汚染水」を研究対象として用いることができなかったことにある。代替物質として重水(D2O)に含まれる三重水素水TDOを研究対象にした。重水は水の電気分解で製造される。その際、三重水素水も濃縮される。しかし、その濃度は-15乗 mol/L程度と極めて小さい。この微量さが検出・計測・分離に際し困難をもたらした。 検出について報告する。三重水素はβ崩壊し、18.6 keVの電子線を放出する。これは極めて低く、通常の検出器では検出できない。平成28年度から簡易計測器を製作した。低エネルギーβ線であるためセルなどの隔絶物は使えない。測定対象と高蛍光性物質を直接混合し、内部を乾燥窒素置換した鉛遮蔽箱の中で計測した。その結果、50±30 Bqであった。濃度にすると上記の値になる。容量は10 mL。 平成29年度から、赤外光照射実験に入る。微量であることから当初計画の自由電子レーザーでなく、光子密度が120倍大きい(1.2 Joule/pulse)Nd:YAGレーザーの基本波1064 nm(9394 cm-1)を用いた。この波長は、三重水素水TDOのν3振動の4量子準位((0,0,4); 9332 cm-1)に近接し、(1,0,3)準位9234 cm-1にも近い。照射位置は水面下5 mm、照射光直径は8 mm、光路長は1往復で100 mm、1 pulseで12%減少した。加熱温度は重水の沸点付近の100.8℃と98.1℃、1回につき8時間照射し蒸留成分を採集した。これを各温度で5回行った。その結果、平均して51±38 Bqと50±44 Bqであった。 これらの結果から三重水素水の振動励起による沸点挙動について、濃縮されるとか、その逆に蒸留しにくくなる、といった特別な事態は発生していないと結論した。
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