研究課題/領域番号 |
26620018
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ分光法 / 反射分光法 |
研究実績の概要 |
本研究では,近接場光学手法と広い波長帯域で動作可能な変調分光法とを組み合わせて,反射スペクトル観察を可能とする近接場ナノ分光顕微鏡を開発し,その有効性と汎用性を明らかにすることを目的としている。近接場ナノ反射分光顕微鏡を実現する上で重要な要素は,試料表面―近接場プローブ先端間の距離制御(変調)法の高度化と変調信号に位相同期させたスペクトル測定法の構築である。前者を高速デジタル制御系の導入により,また後者を同期信号の安定化とマルチチャンネルスペクトル測定装置の機器制御により実現することを計画した。前者では,デジタル制御系の導入により,制御スピードを300 Hzから1 kHz程度に向上することに成功するとともに走査スピードの向上にも成功した。また,後者の測定に不可欠となる距離制御機構の高度化を実現した。後者では,スペクトルシフト測定法の試験導入を行い,測定法自体の原理検証を達成した。 以上の開発により装置を試作し金属ナノ構造の反射測定を行った。その結果,金属ナノ構造体に励起されるプラズモン共鳴に特有の分光スペクトルを取得することに成功している。一方,このテスト計測より,今後改良すべき点についても知見が得られている。例えば,試料上でのスペクトル測定では,自動距離制御機構を一時的にオフにする必要があるが,測定時間中にプローブ先端と試料表面間の距離がわずかながら変化することが明きからとなった。主な原因は,試料の走査ステージに使われているピエゾ素子のクリーピング現象があげられる。これまでに,クリーピング現象を回避する方法として,ステージの閉回路制御を利用が有効であることを確認している。一方,この方式では試料の走査スピードを下げる必要がある。この問題を解決する方法として,走査法の改良を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従って装置の開発を進めている。いくつか当初予想していなかった問題がでてきたものの,その多くをすでに解決できている。また,テスト測定によりナノ物質の反射分光測定が実現できることもすでに確認しており所期の目標を概ね達成することができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,装置の性能向上を進めるとともにこれを用いてさまざまなナノ物質系への適用を検討している。例えば,試料として,化学合成や電子線リソグラフィー法によりシリコン基板上に作製したものを検討している。これまでにナノプレートを用いた透過モードでの測定から,透過配置では空気―試料表面に励起されるプラズモンモードと試料基板―試料界面に励起されるプラズモンモードとが同時にスペクトルに寄与すること,それにより表面モードの特性評価が困難であることが分かっている。反射分光顕微鏡では,試料表面に励起されるモードの同定が可能であり,そこから得られる知見は,プラズモンの理解において有用である。貴金属以外の試料についても検討を進め,分光手法としての汎用性も確認する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を計画していたデジタル機器制御系を再精査し付属部品等を除外した結果,当初計画より支出を軽減することができた。これにより当初予算計画と11万円の差額が生じた。一方で高精度かつ効率的な測定に新たに高額な偏光素子が必要なことが明らかとなった。これを購入する計画にしていたが,納期および導入時期などの理由から次年度にこれを購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分を上記予定通り光学部品の購入費用として支出する計画である。その他の助成金は,当初計画にしたがい消耗品の光学部品の購入,成果発表のための学会旅費,また論文発表用の諸経費にあてる計画である。
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