光触媒反応の効率は、光励起により生じた正孔-電子対を、それぞれ酸化反応サイトおよび還元反応サイトへ分離することが重要となる。反応前に正孔-電子対が再結合すれば消滅し、各反応サイトで酸化生成物と還元生成物が得られても、近接していれば反応して原料に戻るためである。結晶のキンクを利用して正孔と電子を数 nm程度分離すると、水分解で量論比の水素/酸素を発生できるが、結晶構造は物質に依存するので適切な結晶構造の制御は容易ではない。本研究では、物質によらずナノ階層構造を形成できる汎用の積層膜として、単分子膜を前駆体とする酸化物半導体ナノ薄膜を製膜した。Langmuir-Blodgett(LB)法により長鎖アルキルアンモニウムイオンと遷移金属のオキソ酸をイオン対とした有機―無機ハイブリッドナノ薄膜を形成し、これを焼成して金属酸化物ナノ薄膜を得た。膜厚や積層順序は積層数と積層順序により任意に制御可能である。これまでに、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、タングステンの酸化物ナノ薄膜を形成し、伝導帯と価電子帯準位を明らかにした。これらは、半導体光触媒および助触媒のモデル構造として、最適な組み合わせや担持条件の探索に役立つことが期待される。 無機層を含むハイブリッドLB膜の構造安定性が不足するため、多孔質シリカ膜の表面にこれらの半導体薄膜を形成するには至らなかった。現在、多孔質膜の膜構造、表面平滑性の向上、および製膜プロセスの最適化により、表裏両面から物質がアクセス可能なナノ薄膜の形成を進めている。
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