含窒素有機化合物は、有用な生理活性を示す重要な化合物が多く、その効率的合成法が求められている。そのような中、ナイトレン移動反応(酸化的アミノ化)は、入手が容易なアルケンやアルカンを直接窒素官能基化できる優れた手法として注目されている。しかし、既存のナイトレン移動反応は、環境負荷の高い酸化剤を持ち得るために合成効率に問題を抱えていた。 一方、本研究では、アジド化合物を用いることで、各種ナイトレン移動反応の環境適応性を飛躍的に向上させた。また、速度論的反応解析から同反応の一つC-H結合アミノ化は、対応するナイトレン種による水素原子引抜き、および続くラジカル再結合によって進行することを明らかにした。 さらに、同機構に基づく解析から、従来法では、分離が困難であった同位体元素からなる中心性不斉化合物を速度論的に分離することに成功した(最大S=14)。 これらの解析結果をナイトレンと同じ電子構造を有する反応活性種であるカルベン種の移動反応に応用を図り、これまで位置選択性を誘起することが困難であったトランスー3-オクテンなどの単純内部アルケンやアルキルベンゼンなどの高位置選択的カルベンC-H挿入反応の開発に成功した。また、カルベンC-H挿入反応では、協奏的な反応機構、および段階的な反応機構の二つが議論されてきた。そこで、本反応について速度論的同位体効果の解析を進め、同反応がカルベン種による水素原子引抜き、および続く、ラジカル再結合の段階的機構にて進行していることが示唆された。
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