研究実績の概要 |
2個の低いエネルギー光子を1個のより高いエネルギー光子に変換できるアップコンバージョン(UC)は有機系太陽電池の高度化に不可欠な光捕集効率の向上に寄与する。本研究では,太陽光など低強度かつ非コヒーレントな入射光で達成可能な有機色素系三重項-三重項消滅型UCシステムの構築を目的とした。今年度は,以下の項目について知見を得た。 1) ボロネートゲル中におけるアップコンバージョン特性の評価:当研究室では, 有機ジボロン酸を架橋剤とする高分子ゲルの機能化研究をおこなっており, ポリビニルアルコール (PVA) の利用はボロン酸型蛍光色素のグラフトを可能にした。そこで, 当該ボロネートゲルの化学修飾性に着目した取り組みの一環として, UCゲルの調製を試みた。ボロン酸リンカーを有するPt(II)テトラフェニルポルフィリン増感色素 (S) を新規に合成し, PVA にグラフトした。これをDMSO 中で9,10-ジフェニルアントラセン (E) および有機ジボロン酸と混合することで, 橙色の透明なボロネートゲルが得られた。調製したゲルに510 nmの光を照射したところ, 435 nmに極大発光波長をもつ(E)由来の蛍光が観察され, 通気条件下でもUC 特性が見出された。 2)近赤外光吸収増感剤の合成:UC分子系に適用可能な近赤外線吸収色素は高効率な励起三重項状態の発現が要求されるので,その合成は容易ではない。そこで,長波長領域に吸収帯をもつボロンジベンゾピロメテンに着目して,重原子を導入した関連色素体を合成した。そのうち,シクロメタル化白金錯体系色素は,近赤外光吸収特性を持つばかりでなく,励起三重項状態の形成を示唆する結果を得た。
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