研究実績の概要 |
三重項-三重項消滅型フォトンアップコンバージョン(TTA-UC)は低エネルギー光を高エネルギー光に変換できる特性を持ち、太陽電池などの光電変換デバイスの高度化に資する。今年度は、以下の検討をおこなった。 1) TTA-UC分子系におけるコバルト(II)錯体の添加効果: TTA-UCは、増感剤と発光剤との間で励起三重項状態を経由したエネルギーの移動を伴う。よって、酸素による効率低下を招く。本研究では、Co(II)(L-threonine)2錯体が酸素捕捉材として使われていることに着目し、それを添加した場合のTTA-UC挙動を調査した。増感剤として白金ポルフィリン (PtOEP)、発光剤として9,10-ジフェニルアントラセン (DPA) からなるTTA-UC系を調製した。DMSO中、534 nmの励起光に対して、434 nmの青色発光を観測し、アップコンバージョン量子収率(ФUC)は3.66%となったが、Co(II)錯体を添加した系では、UC発光消光が観測された。その一方で、増感剤由来の燐光発光(赤色発光)はほぼ維持される結果を得た。この現象を利用することで、TTA-UCに基づくマルチ発光系の提案が示唆された。 2) セレノフェン置換BODIPYの合成: 上記PtOEPに代わる新規増感剤の探索をおこなった。BODIPYは可視領域に強い吸収帯をもつが、このままでは励起三重項の生成効率は低い。本研究では、重原子効果を期待してセレノフェン置換BODIPYを新規に合成して、その光学特性を調査した。 3) ナフト[1,3,2]オキサザボリニン系近赤外線吸収色素: 近赤外領域に優れた吸収特性を有する色素を合成した。その色素を含む単層デバイスを作製したところ、近赤外光を電流に変換する機能を示した。
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