研究課題/領域番号 |
26620034
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
太田 英輔 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20550320)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ポリマー / 高次構造 / らせん形分子 / 溶媒極性 / ホスト-ゲスト化学 / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
本研究計画では、ジチエニルケトンとジエチニルベンゼン部からなるポリマーを合成し、その直鎖状、あるいはらせん状の高次構造を溶媒極性により制御し、らせん状構造において生じる内部空孔にさまざまなゲスト分子を包摂することを目指している。特に、カーボンナノチューブを包摂することができた際は、ホストとなるポリマーのらせん構造に対応したらせん形のカーボンナノチューブのみを包摂し、溶媒に可溶化することが可能と期待される。 本年度は、ジチエニルケトンとジエチニルベンゼンの各種誘導体を用いた共重合を検討し、目的とするポリマーの合成に成功した。ジエチニルベンゼン部には、さまざまなアルキル鎖導入した誘導体を用いてポリマーを合成しており、今後の検討によってポリマーの構造を変更する必要が生じた際も、すぐに対応できる状況にある。なお、ポリマーの分子量および分子量分散は、GPC法により決定済である。 現在、1H NMR・UV-Vis吸収・蛍光スペクトルを各種溶媒中で測定し、溶媒極性の変化によるポリマーの高次構造の変化について検討を進めている。これまで得られたポリマーは、スペクトルに溶媒の種類による大きな差異はみられず、高次構造が変化していないものと推定される。また、ジチエニルケトン部に対するプロトンの付加によってもコンホメーションが変化するかどうかを検討するため、酸の添加によるスペクトル変化についても検討したが、高次構造の変化について知見を得るには至っていない。 今後は、溶媒極性の変化によってより強固な相互作用を発現させるべく、ポリエチレングリコール鎖を導入したモノマーを用いてポリマーを合成する予定である。このポリマーでは、極性溶媒中では疎溶媒性効果によってポリエチレングリコール鎖が集合し、強力にポリマーの高次構造が規定されるものと期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、交付申請書の平成26年度研究計画に記した、ジチエニルケトンとジエチニルベンゼンの共重合ポリマーの合成を完了できた。平成27年度の研究計画である高次構造の調査にもすでに着手しており、本研究は、研究計画の通りのスケジュールにて進展している。しかし、本研究計画の目的に掲げた、溶媒極性による高次構造の変化については、それを示す観測結果が得られておらず、これより先の研究においては、ポリマーの構造を適宜調整していく必要が生じている。本研究において採用している合成経路では、ポリマーの原料となるジエチニルベンゼン部にさまざまな置換基を導入することが可能であり、現在行っている検討において得られた知見をもとにポリマーの構造を最適化することは十分に可能である。以上の事項より、総合的に本研究計画の達成度は、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように、溶媒極性によるポリマーの高次構造の変化については未だ知見を得るには至っていない。そこ研究代表者は、現在アルキル鎖を導入しているジエチニルベンゼン部に、アルキル鎖に代えてポリエチレングリコール鎖を導入したポリマーを設計した。このポリマーでは、極性溶媒中では疎溶媒性効果によりポリエチレングリコール部が集合し、ポリマー主鎖部分が重なったらせん構造がより有利になると考えられる。これにより、非極性溶媒中ではランダムコイル構造、あるいは直鎖形構造をとり、極性溶媒中ではらせん形構造となるポリマーが実現できると期待される。 溶媒極性によるコンホメーションの制御を達成した後は、らせん形をとった際に生じる空孔に対し、様々なゲスト分子を包摂するかどうかを検討する予定である。特に、空孔のサイズからは、カーボンナノチューブの包摂を期待している。極性溶媒中でらせん形となったポリマーが、カーボンナノチューブを包摂して可溶化できたならば、この包摂挙動をもちいたカーボンナノチューブの精製に挑戦する。すなわち、極性溶媒にカーボンナノチューブをポリマーを分散し、可溶化した上澄み部のみをデカンテーションして、溶媒を非極性溶媒に置換すれば、ポリマーが包摂能をもたないコンホメーションに変化し、再度カーボンナノチューブが不溶化するはずである。このようにして得られたカーボンナノチューブの特性を評価し、本手法による精製の効果について検討したい。
|