本研究では、ヨウ素を用いる酸化反応における反応中間体として含まれる不安定超原子価種を合成・単離し、その化学挙動や反応性を解明することで合成化学的な利用の幅を広げるとともに、その特徴を活かした新しい有機合成へと応用展開することを目的とする。前年度の研究では、想定反応中間体とされる超原子価ヨードニウム種の安定化に焦点を当て、その配位子(および対イオン)等の適切な分子設計により、いくつかの新規ヨードニウム種の発生と単離に成功した。 この適度に安定化された超原子価ヨードニウム種の結合形成を伴う分解過程には、反応条件や試薬の選択に依存したいくつかの経路が機構的に考えられるので、平成27年度は単離した超原子価ヨードニウム種の自在活性化を目標に、その反応性の制御を試みた。特に、安定化に用いた配位子および対イオンを効果的に取り除き、高活性種を再生する化学的手法を検討した結果、酸素親和性の高いルイス酸が最も効果的であることを見出した。このような超原子価ヨードニウム種を経る段階的な結合形成は、異種官能基が順次導入された通常は得難い生成物が簡便に得られるため、本法を多官能基化された環状分子の合成手法として応用すべく、環状の安定化超原子価ヨードニウム種に対する新規結合形成法としての応用を種々検討した。 最後に、本研究の最終目標であるさらに不安定なヨードニウム中間体の発生と利用について、sp3炭素-ヨウ素結合を持つ化合物のヨウ素原子選択的酸化法を新たに開発することで、極めて不安定なsp3炭素-超原子価ヨウ素結合を系中で効果的に発生させることに成功し、その還元的開裂を反応の駆動力とした新しい炭素求核種導入法を開発した。
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