研究実績の概要 |
ポルフィリン・フタロシアニンは18π芳香族性の電子構造を持つが、それらの類縁体であるヘミポルフィラジンは2電子多い20π電子構造を持つユニークな化合物である。4nπ電子系の平面環状化合物は通常反芳香族性を示し、常磁性環電流効果が観測されるが、ヘミポルフィラジンは平面構造をとるにも関わらず常磁性環電流効果が弱い。本研究では、HOMO-LUMOギャップを小さくすることで常磁性環電流効果の強い反芳香族性ヘミポルフィラジン化合物を合成し、その分子構造、安定性、光吸収・発光特性などを明らかにすることを目的としている。環電流効果とHOMO-LUMOギャップの相関関係を実験的に明らかにして、反芳香族性化合物を得るための新しい方法論を開拓することを目指す。 本年度は、チアゾールヘミポルフィラジンの新規誘導体の合成と物性評価に取り組んだ。昨年度から合成が確認できたスルホニル基を有するチアゾールヘミポルフィラジン(1)の他、チアゾールユニットにメトキシフェニル基を持つチアゾールヘミポルフィラジン(2)、チアゾールユニットにメトキシ基、イソインドリンユニットにスルホニル基を持つチアゾールヘミポルフィラジン(3)を得ることができた。各化合物の電子吸収、1H NMRスペクトル、サイクリックボルタモグラムを測定して、HOMO-LUMOギャップと環電流効果の大きさを見積もったところ、化合物3, 1, 2の順にHOMO-LUMOギャップが減少し、この順に常磁性環電流効果が強くなることを見いだした。単環性4nπ電子系の場合、常磁性環電流効果の大きさがHOMO-LUMO遷移に支配されることが理論的に示されているが、本研究において多環性4nπ電子系においても常磁性環電流効果の大きさがHOMO-LUMO遷移に支配されることを実験と理論計算の両方から明らかにした。
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