本研究の目的は、分子カプセルに重合開始剤を内包することで、高い安定性と利便性を兼ね備えた機能性試薬を開発することである。その戦略として、多環芳香族骨格で囲まれたナノ空間を有する金属架橋カプセルに汎用的な光重合開始剤AIBNを内包することで、その光に対する安定性を高めるとともに、外部刺激に応答した開始剤の放出により、高効率な重合反応を達成する。すなわち、分子カプセルを活用した新重合開始剤を作製する。以下に本年度の研究成果の概略を述べる。
1.光ラジカル重合開始剤の内包と安定化:昨年度の成果を基に、種々のAIBN誘導体を用いて内包による安定化を調査した。その結果、長鎖のラジカル開始剤のAMMBNも分子カプセルに定量的に内包され、この際、光照射だけでなく加熱に対してもAMMBNは顕著に安定化されることが明らかになった。通常、AMMBNは室温でも徐々に分解するが、カプセル内のAMMBNは50℃の加熱条件でも長時間、安定に存在することをNMRおよびMS測定で明らかにした。また、X線結晶構造解析の結果、1分子のAMMBNはカプセル空間を完全に占有し、分子カプセルの多環芳香族骨格からの圧縮効果により、熱的に安定化されたと考えられる。
2.外部刺激による開始剤の放出と重合反応:分子カプセルに内包されたラジカル重合開始剤を単離し、それをオレフィン(MMA)の入った有機溶媒に加えることで、AMMBNは自発的にカプセル内から放出された。その状態で、その溶液を光照射または加熱することで、高収率・高分子量分散のポリマー(poly-MMA)を得ることに成功した。
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