研究課題/領域番号 |
26620051
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松尾 司 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90312800)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シリン / ケイ素 / 三重結合 / 合成化学 / ジアゾメタン / N-へテロ環状カルベン / ジシリン / 立体保護基 |
研究実績の概要 |
本研究では、ケイ素ー炭素三重結合化学種である「シリン」の合成に挑戦している。シリンは、多くの化学者が物性や反応性に興味をもちながらも、これまで仮想分子であった。本研究では、独自に開発した嵩高い「縮環型立体保護基(Rind基)」を導入し、合成法を工夫することで、シリンを安定な化合物として合成・単離することを目的とする。シリンの分子構造や化学結合について解明するとともに、特異な結合電子に由来する反応性を探究することを目標とする。 平成27年度は、平成26年度に引き続き、Rind基が置換したハーフペアレント型の「ジアゾメタン」の反応性について調査した。ジアゾメタンとブチルリチウムとの反応により、「ジアゾメチルリチウム」が生成することを捕捉実験により確認した。また、ジアゾメタンの光反応について調査した。捕捉剤無しの条件では、脱窒素に伴い生成する「三重項カルベン」がRind基の側鎖のC-H結合を分子内で活性化して対応する環化体を与えた。また、N-へテロ環状カルベン(NHC)の存在下では、三重項カルベンとNHCが結合したアルケンが安定に生成することを見いだした。 また平成27年度は、従来よりも嵩高いRind基をケイ素上に導入し、ケイ素ーケイ素三重結合化学種である「ジシリン」の合成研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未踏のケイ素ー炭素三重結合化学種である「シリン」の合成に向けて、「ジアゾメチルリチウム」の発生法を確立した。ケイ素試薬による捕捉実験について調査中である。ルイス塩基で安定化された「ブロモシリレン」の反応性に関する共同研究も進行中であり、炭素化学とケイ素化学の先駆的知見の融合による今後の研究展開が大変楽しみな状況である。嵩高いRind基の導入により、ケイ素ーケイ素三重結合化学種である「ジシリン」の合成にも成功している。一方、Rind基を置換した嵩高いアルキンの合成は道半ばである。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に開発した「ジアゾメチルリチウム」の反応性について引き続き調査を行い、嵩高いRind基とジアゾメチル基が置換したシリレンの合成を行う計画である。また、平成27年度に調査したジアゾメタンの光反応に関する知見に基づき、「カルベン・シリレン中間体」を経由した「シリン」の合成に取り組む。さらに、実験化学と理論化学の両面から、アルキン、シリン、ジシリンを比較調査することで、シリンの高度に分極した三重結合の電子状態の解明を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ジアゾメタン類は極めて反応活性で爆発性を有する場合もあり、本研究では安全性を確保できるまでは反応スケールを小さくする場合が多かった。このため、今年度に使用した物品費(試薬代や消耗品代など)は、当初計画よりも小額であった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究で取り扱うジアゾメタン類の安全性が確認され、熱や衝撃に対して十分に安定であることがわかったので、来年度は反応スケールを大きくして、研究を加速させる計画である。
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