本研究では、ケイ素ー炭素三重結合化学種である「シリン」の合成に挑戦している。シリンは、多くの化学者が物性や反応性に興味をもちながらも、これまで仮想分子であった。本研究では、独自に開発したかさ高い「縮環型立体保護基(Rind基)」を導入し、合成法を工夫することで、シリンを安定な化合物として合成・単離することを目的とする。シリンの分子構造や化学結合について解明するとともに、特異な結合電子に由来する反応性を探究することを目標とする。 平成28年度は、平成27年度に引き続き、比較的かさの小さなEMind基が置換したハーフペアレント型の「ジアゾメタン」とn-ブチルリチウムとの反応について調査した。その結果、目的とするジアゾメチルリチウムではなく、ジアゾメチル基の末端窒素にn-ブチル基が結合したリチウム化合物の二量体が生成することを単結晶X線構造解析により明らかにした。ジアゾメタンとリチウムジイソピルアミド(LDA)などの他のリチウム試薬との反応および捕捉実験についても調査を行った。ジアゾメチルリチウムの効率的な発生を見いだすには至っておらず、引き続きリチオ化の反応条件を精査する必要がある。 また平成28年度は、平成27年度に引き続き、ジアゾメタンの光反応について調査した。その結果、脱窒素により三重項カルベンが発生するだけでなく、水素原子の移動に伴い窒素ー窒素結合が切断したニトリル化合物が生成することを見いだした。ジアゾメタンの新しい反応性である。 さらに平成28年度は、比較的かさの大きなMPind基を用いて、ケイ素ーケイ素三重結合化学種である「ジシリン」の合成について調査した。MPind基を有するトリブロモシランの還元縮合により「ジブロモジシレン」を合成し、分子構造を単結晶X線構造解析により決定した。ジブロモジシレンとt-ブチルリチウムとの反応について調査を行った。
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