研究実績の概要 |
本研究では、安定な半閉殻構造を取るマンガン(II)錯体に着目し、これの反応性の詳細理解に基づき、高スピン型金属触媒の開発を目指す。本年度はまず、マンガン(II)錯体の反応性理解の前段階として、種々のマンガン(II)錯体の合成に取り組んだ。合成既知のマンガン(II)アルキル錯体[Mn(CH2SiMe3)2]n (1: n = ∞)を原料として水素およびアルコールとの反応を検討したものの、種々の未同定錯体の混合物が得られたのみで、目的とするマンガン(II)ヒドリド種、マンガン(II)アルコキシ種を合成単離することはできなかった。次に、マンガン上にN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)を支持配位子として有し、比較的安定に存在するマンガン(II)アルキル錯体を原料として、種々のマンガン(II)錯体の合成を検討することにした。まず、塩化マンガン(II)とNHCとの反応により[MnCl2(NHC)2]を合成し、これにメチルリチウムを作用させることで、[MnMe2(NHC)2] (2a, NHC =1,3-diisopropyl-4,5-dimethylimidazol-2-ylidene (IiPr); 2b, NHC = 1,3-bis(2,4,6-trimethylphenyl)imidazole-2-ylidene (IMes); 2c, NHC = 1,3-bis(2,6-diisopropylphenyl)imidazole-2-ylidene (IPr))を得た。単結晶X線構造解析により、錯体2a-cは結晶状態で、二つのメチル基により架橋された二核構造をとることを明らかにした。 次に、錯体2の基礎的反応性を明らかにするべく、まずアルコールとの反応を検討した。錯体2aに室温で2倍モル量のエタノールを作用させると、アルコールの-H結合切断が速やかに進行し、[Mn(OEt)2]n (3) がほぼ定量的に得られた。さらに、錯体2a-cとテトラメチルシラン(Si(OMe)4)との反応を検討すると、テトラメトキシシランのモノメチル化が選択席に進行し、MeSi(OMe)3が40%程度の収率で得られた。したがって、錯体2は、電気陽性のMnに結合したメチル基が、求核剤として反応することが示された。
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