研究課題/領域番号 |
26620052
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中島 裕美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 触媒化学融合研究センター, 主任研究員 (80462711)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 3d金属 / 高スピン |
研究実績の概要 |
本研究では、高スピン型錯体を用いて新規触媒反応開発を目指す。高スピン電子配置は、配位子場の小さい3d金属錯体特有の電子状態であることから、本電子状態を持つ種々の錯体は、その電子状態を反映して新しい反応性を示すことが期待される。しかしながら、取扱いおよび分析が困難であるため、高スピン型錯体の反応性は未だ不明な点が多く残る。初年度は、半閉殻構造を取ることで、高スピン電子状態を安定にとることが知られるマンガン(II)錯体に着目し、種々のマンガン(II) アルキル錯体の合成とその反応性解明に取り組んだ。本取り組みでは、マンガン(II)アルキル錯体が、そのアルキル配位子をアルコキシシラン類など、種々の基質に対して求核剤として作用させることを見出した。しかしながら、その反応性は中程度であり、これはおそらく安定な半閉殻電子配置を有していることによるものと考えた。また常磁性種である錯体の同定には単結晶X線構造解析を用いる必要があるため、結晶性の悪い本錯体系を用いては、研究の進展に予想以上の時間を要した。 以上の背景を基に、本年度はマンガンに加え、鉄、コバルト、ニッケルを中心金属とする種々の錯体を用いて検討を行った。具体的には、PNP-ピンサー配位子を持つ鉄(III)ヒドリド錯体、N-ヘテロ環状カルベン配位子を持つコバルト(I)アルキル錯体、およびコバルト(II)アルキル錯体、合成既知として知られる種々のニッケルアルキル、アリール錯体を合成し、それらとアルコキシシランとの反応を検討することで、得られた錯体の求核性を評価した。その結果、コバルト(II)アルキル錯体が、効率よくアルコキシシランと反応し、ヒドロシランを定量的に生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3d金属錯体は、容易にスピン反転することで多様な電子状態を取り、それに伴って突如劇的に反応性を変化させることから、その反応性の詳細理解が困難とされてきた。そこで本研究では、半閉殻構造により適度に高スピン電子配置を安定とする錯体種(マンガン(II)錯体、鉄(III)錯体)を用いて、高スピン型錯体の反応化学を展開することとした。一方で、研究の進展とともに、これら半閉殻構造をとる錯体種は、想定以上に安定化されており、反応性が乏しいことがわかった。さらに、常磁性錯体の合成単離、同定は予想以上に困難であり、限られた数の錯体しか検討することはできなかった。以上の理由から、当初の予定より本研究の達成度は若干遅れるに至った。また、本年度は研究代表者の出産に伴い実質半年間の休暇を取得したことも、研究遅延の一要因としてここに追記する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みで、コバルト(II)アルキル錯体が特異的に高い求核性を示すなど、興味深い実験結果を得ることが出来た。今後は、さらに種々の有機基質との反応を検討することで、結合切断能なども含め、本錯体系反応性の詳細理解に取り組む。また、錯体の電子状態解析にも取り組むことで、本錯体系が高い反応性を発現するに至った要因を探る。 本コバルト(II)アルキル錯体は、反応点となるコバルト-アルキル結合近傍に位置する配位子の種類がその反応性を大きく左右することが示唆されている。これら配位子の影響に関して、系統的な理解にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
出産に伴い、研究を一時中断した。それに伴い、研究の進捗が遅れ、若干の予算残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究推進に必要な消耗品を購入予定である。
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