研究課題/領域番号 |
26620054
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原田 潤 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00313172)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子性固体 |
研究実績の概要 |
強誘電体とは,自発的な分極を持ち,その分極を外部電場によって反転できる物質である.これまで多くの強誘電性結晶が報告されているが,そのほとんどは無機物質であり,純粋な有機分子からなる強誘電性結晶を設計することは困難とされている.本研究では,電荷移動錯体結晶中での有機分子の分子運動を利用して,強誘電性を示す分子性結晶の設計を行う.結晶中でも面内回転運動可能な平面極性分子をドナーあるいはアクセプターとして,弱い電荷移動相互作用を持つ交互積層型錯体結晶を作製する.高温での分子の自発的な面内回転に由来する配向の乱れと,低温での整列を利用して,分子環境および結晶全体の対称性を動的に制御し,強誘電転移を誘導する.分子運動を利用すれば,有機強誘電結晶の設計が可能であることを実証する. これまで,アクセプタとして,比較的大きな双極子モーメントを持つテトラブロモ無水フタル酸(TBPA),ドナーとしてヘキサメチルベンゼン,コロネン,ペリレンのような,無極性の芳香族分子を用いて電荷移動錯体の単結晶を作製した.それぞれの結晶について単結晶X 線構造解析,DSC測定,誘電率測定を行った.極性アクセプター分子TBPAは単一成分結晶中あるいはヘキサメチルベンゼンとの錯体結晶中では配向の乱れはなく,結晶は誘電応答を示さなかった.一方,TBPAとコロネンあるいはペリレンとの電荷移動錯体結晶では,TBPAの配向に乱れがあり,配向変化に由来する誘電応答が見られた.特に,TBPAとペリレンからなる電荷移動錯体結晶は配向の秩序ー無秩序化に由来する構造相転移を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り,極性アクセプター分子を含む電荷移動錯体結晶の作製,結晶構造決定に成功した.多くの錯体結晶は極性分子の配向変化による誘電応答,配向の秩序-無秩序化に由来する相転移を示した.ペリレン-TBPAの構造相転移は,相転移点において大きな誘電率変化が見られ,その結晶は反強誘電体となり得る構造変化を示した.類似した化合物群の結晶の多くが相転移を示した.その相転移における結晶構造変化は,強誘電相転移となるための要件のうちのいくつかを満たすものが多く,これらの電荷移動錯体結晶は有機強誘電性結晶探索の有望な対象であることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
既に極性アクセプター分子を含む電荷移動錯体結晶において,相転移に伴う結晶構造変化から強誘電性を示すことが期待できるものがいくつか得られている.今後は良好な単結晶を作製し,分極-電場相関のヒステリシスを測定することで,これらの結晶の強誘電性を明らかにする.また,探索化合物の対象を極性ドナー分子を含む電荷移動錯体にもひろげ,多くの結晶についても検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
故障したクライオスタットの修理の際に,原因究明に時間がかかり,修理に必要な温度センサーなどの発注が遅くなったためである.
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次年度使用額の使用計画 |
温度センサーなどは既に発注納品されており,これらをクライオスタットに組み込む作業も順調に行えている.
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