研究課題/領域番号 |
26620056
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福村 裕史 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 客員教授 (50208980)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 走査型トンネル顕微鏡 / ギャップモード / プラズモン / 銀ナノ粒子 / ハイパーラマン散乱 / ハイパーレイリー散乱 |
研究実績の概要 |
ハイパーラマン散乱断面積は通常のラマン散乱断面積より30桁小さく、2光子蛍光断面積と比較しても約10桁小さい極めて起こりにくい過程である。したがって、ハイパーラマン散乱を観測するためには通常、高出力のレーザーが必要である。しかしながら走査型トンネル顕微鏡と組み合わせてレーザーを集光する場合には、高出力レーザー光はトンネルプローブや試料に損傷を与える可能性が高い。そこで、平均パワーが比較的小さい高繰り返しパルス光を用いてピークパワーの高さでハイパーラマン散乱を観測しなければならない。本研究では、現有する約5mWの200fsパルスレーザー(1030nm)を用い、30MHzで7分程度積算することにより、ローダミン色素のハイパーラマン散乱スペクトルが得られるかどうかを確認した。トンネルプローブと基板の間に生ずるギャップモード・プラズモンを観測するためには光学系のセットアップが難しいので、今年度は溶液内で銀ナノ粒子を凝集させ通常の光学セルを用いて測定を行った。この結果、ローダミン色素の濃度がマイナス6乗でも十分な強度のハイパーラマン散乱スペクトルが測定できることを確認した。色素濃度が増加するにつれ、ナノ粒子のギャップ以外に存在する色素からの2光子蛍光成分が増加し、ハイパーラマンスペクトルの測定は困難になることがわかった。さらに、ローダミン色素が存在しない凝集銀ナノ粒子のみの場合には、ハイパーレイリー散乱光が強く観測されることが明らかとなった。このハイパーレイリー散乱光は、ローダミン色素濃度の増加によるハイパーラマン散乱光の増加とともに減少するので、2光子過程の起こる空間領域がナノ粒子間の極めて小さい空隙に限られているものと推測した。走査型トンネル顕微鏡下でハイパーレイリー散乱光を観測することにより、ナノ領域のギャップモードマッピングが可能となるので、予想外の新しい成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の実験では、低繰り返し高出力レーザーを用いてハイパーラマン散乱スペクトルの測定を試みたが、レーザーのピーク強度が高すぎて溶液内でイオン化放電が起こり、ハイパーラマンスペクトルの測定が困難であった。このため今年度は、赤外線透過率の高い特殊な対物レンズを購入し、これを用いてナノ粒子の分散した均一溶液を試料とし、ハイパーラマンスペクトルの最適測定条件を求めることにした。この結果、ギャップモードからハイパーレイリー散乱が強く観測できることも発見できた。しかし、走査型トンネル顕微鏡下にパルスレーザー光を導入するためには、光学系のセットアップが課題の一つとして残っている。
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今後の研究の推進方策 |
まずCWレーザーを用いて金表面に吸着した分子のチップ増強ラマンスペクトル測定を行う。この際、溶液が無くても吸着分子が自己組織化膜を維持するようチオール基を分子に導入するなどの工夫を試みる。このような試料を用いることで、トンネルプローブ周辺の液体の影響が避けられるものと期待している。これができるようになってから、フェムト秒パルスレーザー光を走査型トンネル顕微鏡に導入してハイパーラマン散乱スペクトル測定に取り組む。吸着分子系の測定が難しいときには、グラファイト基板に金ナノ粒子を固定し、金チップとの間隙に生ずるギャップモードのハイパーレイリー散乱スペクトルによって光子マッピングを試みる。これは研究当初予想していなかった展開であるが、ギャップモード空間のハイパーレイリー散乱による可視化という新しい成果が期待できる。
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