研究実績の概要 |
金属イオンの配位子場がスピンクロスオーバー領域にある混合原子価錯体では、電荷とスピンが連動した特異な相転移を起こす可能性を持っており、従来のスピンオーバー錯体には見られない新現象が期待される。このような観点から、本研究では、鉄混合原子価錯体 A[M(II)Fe(III)(mto)3] (A = (n-CnH2n+1)4N, Ph4P, etc.; M = Mn, Fe, etc.; mto = C2O3S) を開発した。 (C4H9)4N[Fe(II)Fe(III)(mto)3]では、磁化率および57Feメスバウアー分光測定により、TN = 38 Kのフェリ磁性体であること、(n-C4H9)4N[Fe(II)Fe(III)(mto)3]の常磁性相においてFe(II)とFe(III)の間で原子価揺動が起こっていることを明らかにした。即ち、Fe(III)サイトの低スピン状態とFe(II)サイトの高スピン状態の間には強磁性相互作用が働き、Fe(II)の電子が隣のFe(III)に容易に移動することができることから、Fe(III)サイトの低スピン状態を媒介としてFe(III)サイトにおける速いスピン平衡とFe(II)-Fe(III)間原子価揺動の協同効果が起こっていることを明らかにした。 (C6H5)P[Mn(II)Fe(III)(mto)3]では、30 KにおいてMn(II)のみが反強磁性的に磁気秩序化し、23 K以下でMn(II)とFe(III)が層内で反強磁性的に磁気秩序化していることが分かった。即ち、30 K~23 Kの温度領域では、Fe(III)は動的スピン平衡のため磁気秩序を起こすことができず、Mn(II)サイトのみ磁気秩序化を起こすこと、23 Kで動的スピン平衡が凍結され、Fe(III)とMn(II)が共に磁気秩序化し、フェリ磁性体となることを明らかにした。
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