研究実績の概要 |
本研究では,高い水素貯蔵能を持ち,かつ低温水素吸着貯蔵タンクへの急速ガス充填時における吸着熱の発生に伴う温度上昇と,それに起因する吸着量の減少を,ガス吸着に誘起される吸着材の構造変形に伴う『熱吸収』によって抑制する自己熱補償型ソフト水素貯蔵材料の創製を目的とした。H27年度は,H26年度に確立したゼオライト鋳型炭素(zeolite templated carbon: ZTC)の「合成シミュレーション・分子モデリング」手法を用いて,数十種のゼオライトを鋳型とするZTCの合成を計算機上において行った。これによって,17種類のゼオライトから3次元ネットワーク構造を有するZTCが得られることが明らかとなり,また,ゼオライトへの炭素導入量を変えることで,合計89種のZTCモデルを構築することができた。そして,得られたZTCモデルに対する水素吸着シミュレーション(吸着圧:100 bar,脱着圧:1 bar)を実施したところ,温度298 Kではアメリカエネルギー省のターゲット(体積密度:40 kg/m3,重量密度:6 wt%)を達成することは不可能であった。しかし,温度77 Kでは液体水素密度73 kg/m3(20 K, 1 bar)の2/3に匹敵する体積密度を示すZTCが多く得られた。水素の体積密度が最大となったのは,BEAゼオライトを鋳型とするBEA-ZTCであり,その貯蔵量は49 kg/m3であった。一方,水素の重量密度が最大となったのは,FAUゼオライトを鋳型とするFAU-ZTCであり,11 wt%が得られた。現在,水素の大量輸送・貯蔵手段の一つとして液化水素が有望視されているが,その実用化上,問題となるのが貯蔵タンクからの水素のボイルオフである。本研究によって得られたFAU-ZTCおよびBEA-ZTCは,そのボイルオフガスの回収・貯蔵用吸着材料としての応用が期待される。
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