研究課題/領域番号 |
26620070
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
唐澤 悟 九州大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80315100)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | MRI / 造影剤 / メタルフリー / TEMPO / 自己集合化 |
研究実績の概要 |
現在臨床で用いられているGd錯体で構成されたMRI造影剤を代替し、金属を用いずに有機ラジカルをスピン源としたメタルフリー造影剤を得ることを目的とした研究である。今までに親水性に優れたオリゴヌクレオチドを基本骨格として安定TEMPOラジカルを導入したミセル状ナノ微粒子を用いて高い感度(大きな緩和能)を得てきた。これは水とラジカルが分子間で水素結合を形成し、効果的に結合水が拡散することにより高い感度を導いたと考えている。オリゴヌクレオチドと比較するとより汎用性の高い素材で、同様に高い感度を示す造影剤を構築するために、当研究室で開発された両親媒性ウレアベンゼン誘導体(UBD)の水中における自己集合化能に着目し、UBDにTEMPOを導入したTEMPO-UBDで高感度化を目指した。前年度までに、TEMPO-UBDが水中において自己集合化し、数十ナノメートルのナノ微粒子を形成し、感度は低分子TEMPOラジカルと比較して数倍程度であったと報告している。これは、TEMPOラジカル周辺に十分な水分子が存在せず、TEMPOとの結合水が存在しない若しくは効果的に拡散していないからであると考察した。 そこでH27年度、ウレアベンゼン誘導体の両親媒性側鎖部位へ3級アミンを導入することによってより極性を高めた、TEMPO-UBD-NNを新たに合成し、自己集合化挙動と感度の測定を行った。その結果、TEMPO-UBD-NNは極性を高めたにも関わらず、強い自己集合化能を示し、約10ナノメートルの微粒子を水中で得た。興味深いことに、ナノ微粒子どうしも弱い分子間相互作用を形成していることが、SEM画像から明らかとなった。感度を1TMRI装置を用いて緩和能として見積もり、低分子TEMPOの1.3倍の値を得た。この値は目的とするGd錯体に比べて10分の1程度であり、極性基である3級アミンの効果が見出されなかった。このことは3級アミンが水中でプロトン化され、その結果イオン反撥が生じたことに起因すると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目標値に迫る高感度の造影剤が得られていない。H27年度新たに分子設計設計したTEMPO-UBD-NNは、水溶液中3級アミンが容易にプロトン化しカチオン性を示した。ナノ微粒子を形成するとこのカチオンによる電荷反発が思っていた以上に大きくなり、その結果分子運動性も大きくなることで高い感度を示さなかったと考察している。
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今後の研究の推進方策 |
そこでH28年度は、TEMPOラジカルの平面性を拡張した分子を合成することで、硬い分子構造により分子の運動性を制御し、高い感度を示す有機ラジカル候補として計画している。もし高い感度が得られなかった場合、高い水溶性を示す糖へ有機スピン源を導入する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
放射線医学総合研究所と連携して研究を遂行している。放射線医学総合研究所では、代表者が合成したサンプルの水プロトン緩和能を測定することによって、MRI造影剤の評価を行っている。マシンタイムの都合などによって、実験可能な日数が限られいる。したがって、合成サンプルを測定する目的のための出張費や、用事調整が必要な不安定物質の合成費用などを繰り越すことにし、H28年度当初の目的で使用する予定である。また、迅速に研究目的を達成するために、新たに技術職員の雇用費と計画した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度であるため、目的を速やかに確実に達成する必要がある。そのため、4月から技術職員を雇用し、人件費として使用する。共同研究先の放射線医学総合研究所への出張費としても使用する。
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