研究課題
官能基や糖鎖や抗原など特定化学種を認識する金属ナノ粒子を標識として用いることで,バクテリアの形状および表面の化学種の分布や配置を選択的に可視化する手法と,極少量のバクテリアを迅速かつ高感度に検出する手法の開発を目的とした検討を行った。光学顕微鏡の明視野において分解能以下のサイズを持つ金属ナノ粒子の観察は不可能であるが,特定波長での励起による金属ナノ粒子表面での集団的電子振動に基づき生じる光散乱に着目することで暗視野での光学顕微鏡観察が可能になる。金属ナノ粒子の光散乱特性は,金属種,サイズや形状に強く依存することから,優れた光散乱特性を有する金属ナノ粒子の作製を目指して検討を行った。その結果,金属ナノ粒子が高密度に集合したナノ構造体が最も優れた光散乱特性を発現することが明らかになった。これは,構造体内部において金属ナノ粒子が高密度かつ高分散状態で存在するためであり,個々の金属ナノ粒子が発現する光学特性が構造体内で高次にカップリングすることで多くの光を吸収し,増強された光を放出することに基づいている。こうして得られた金属ナノ粒子集合体に特定のバクテリア表面の化学構造に結合,あるいは化学的相互作用する分子を導入することで,バクテリアへの選択的結合を達成した。走査型電子顕微鏡,および暗視野顕微鏡によりバクテリアの形状とともに標識の吸着状態を観察することで,特定バクテリアを選択的に可視化することに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
大腸菌O157表面に存在するO抗原に特異結合する抗体を導入したナノ構造体は,他の抗原を持つ大腸菌に比べ,3倍以上の選択結合性を示した。この構造体の分散液の色は,コンポジットの分散状態に依存しない,つまり,吸収スペクトルに波長変化が見られないことから,単一波長における定量が可能であることがわかった。そこで,この抗体導入ナノ構造体を用いて溶液中のO157の定量を行ったところ,ナノ構造体に基づく吸光度(吸収および光散乱を含む)は直線的に変化し,10 cells/mLレベルの高感度定量が可能になった。
特徴的な光散乱特性を個々に有する金属ナノ粒子を標識として用いることで散乱光に着目した特定バクテリアの表面構造の解析と異なるバクテリア種の一括検出が容易になることから,標識法によるバクテリアの検出について,暗視野観察によるバクテリア表面の化学構造の解明および迅速検出について検討を行う。さらに,試料溶液中のバクテリアについて,ナノ構造体に基づく吸光度(吸収および光散乱を含む)に基づいた高感度な定量についても検討する。
バクテリア表面の化学構造の解析について,当初計画では分子修飾した探針をプローブとした走査型プローブ顕微鏡(SPM)観察により詳細な検討を行う予定であったが,SPMによる基礎検討の段階で,分子を化学修飾したナノ粒子やナノ粒子構造体をプローブとして用いることでバクテリアの表面情報が十分に得られ,さらにナノ粒子の粒径に基づいた詳細な情報の取得が達成された。したがって,本年度の当初計画にあるSPMのカンチレバーや金線などの高額消耗品の使用が当初計画より抑えられたため。
精力的な成果の取得を目指し,研究補助員の雇用による研究人員の拡充と成果報告のための旅費に使用する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Chem. Commun.
巻: 50 ページ: 6252-6255
10.1039/c4cc01204f
巻: 50 ページ: 11887-11890
10.1039/C4CC04647A
http://www.chem.osakafu-u.ac.jp/ohka/ohka12/index.html
http://kyoindb.osakafu-u.ac.jp/html/100599_ja.html?k=%E6%A4%8E%E6%9C%A8%E5%BC%98