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有機化学において最も普遍的な不斉現象は、不斉炭素原子に基づくものである。一方、リン原子上にキラリティを有する化合物は、不斉配位子などのキラル・テンプレートとして利用される有用な化合物であるが、これらの化合物を単一のエナンチオマーとして得る従来の手法のほとんどは、ラセミ体の光学分割、あるいは化学量論量の不斉源を必要とするジアステレオ選択的合成手法である。これらの現状をふまえて、本研究ではより効率のより「触媒的不斉合成手法による不斉リン原子の立体化学の制御法の開発」を目的として研究を行った。
近年我々は、不斉閉環メタセシス反応を利用した「面不斉遷移金属錯体の触媒的不斉合成法」を種々開発し報告している。これらの知見をもとに本研究では、「プロキラルなビスアルケニルホスフィン類の不斉メタセシス反応による非対称化」による不斉リン原子上での立体制御を試みた。メタセシス反応においては、立体選択性とともに化学選択性が大きな問題となる。この点を解消する方策として、クロム錯体をプラットホームとして利用した。プロキラルなビスアルケニルホスフィン、アルケニルアレーンをそれぞれ１分子ずつクロム上に配位させ、「クロム錯体上での閉環メタセシス反応」を行うことにより、完全なクロス選択性でのメタセシス反応が進行する。キラルなメタセシス錯体を用いることにより、最高96%eeでリン原子上に不斉を誘起することができた。ここで得られたP-キラルなホスフィンを有するクロム錯体は、空気中で太陽光照射することにより容易に酸化的に脱クロムすることができ、不斉閉環メタセシス反応により錯体上で構築されたホスフィンは配位子を単離することができる。リン原子の空気酸化を防ぐ目的でイオウ存在下で脱クロム反応を行うと、光学純度を損なうことなくP-キラルホスフィンスルフィドへと導くことができることを見出した。
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