研究課題/領域番号 |
26620083
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢田 陽 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70619965)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機金属化学 / 炭素―水素結合 / パラジウム |
研究実績の概要 |
遷移金属触媒による炭素―水素結合の変換反応は、標的分子を短工程かつ副生成物を最小限に押さえながら合成できるため、きわめて有用な分子変換手法であるが、炭素―水素結合の反応性の低さゆえに効率の改善が急務である。本研究は、分子への活性基の導入・結合形成・活性基の再利用という一連の素反応から成り立つ触媒サイクルを確立し、これが炭素―水素結合の反応性の克服に資することを実証することを目的とするものである。 昨年度までに、第一級アミン化合物のγ位炭素-水素結合のパラジウム触媒によるアリール化反応が、サリチルアルデヒドを等量添加すると効率的に進行することを見出していた。本年度は、サリチルアルデヒドを触媒量用いる反応の開発に取り組んだ。その結果、2-エチルアニリンや1-ナフチルアミンのアリール化反応において、サリチルアルデヒドを触媒量だけ添加した場合でも目的の反応が効率的よく進行することを明らかにした。これはアミン化合物に『配向基』を活性基として導入し、パラジウム触媒を用いて位置選択的に炭素―水素結合を炭素―炭素結合に変換し、さらに配向基の付け替えを反応系中で行うという、これまでにない新しい触媒サイクルで反応が進行している。研究開始当初に想定していた触媒サイクルとは異なるが、予期せぬ研究成果であり非常に有意義であると考えている。 一方、本反応の検討の最中に、分子内にアルケン部位を有する環状ケトンをパラジウム触媒の存在下で反応させると、分子内環化反応が進行し二環性化合物が得られることを見出した。この反応の反応機構に関する知見を得るために、カルボニル基が存在しない基質を合成して反応を行ったところ、目的とする二環性化合物は全く得られなかった。このことから、本反応を進行させるためにはカルボニル基が必須であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、サリチルイミンを配向基として用いた2-エチルアニリンや1-ナフチルアミンのアリール化反応を触媒量のサリチルアルデヒドで進行させることに成功した。この結果は、研究開始当初の計画では想定していなかった新しい触媒サイクルによる炭素―水素結合の変換反応ではあり、学術的にも非常に有意義な結果が得られたと考えている。 一方、本研究の途中で環状ケトンの炭素―水素結合を触媒的に変換する新しい手法を発見している。現在検討の途中ではあるが、非常に重要な研究シーズであり、今後の結果次第で幅広く有機合成に応用できる反応になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、サリチルアルデヒドを配向基として用いて、アミン化合物の炭素―水素結合をパラジウム触媒によってアリール化する反応を達成することができたが、同様の手法によりアリール化以外にもアルコキシ化やアミノ化、ハロゲン化が達成できる可能性を秘めているので、それらの反応への応用検討を推進していく予定である。また、反応機構に関する詳細な検討が不十分であるため、反応中間体の観測や単離などを行うことで、反応機構に関する知見を深めていきたいと考えている。 また、本年度見つけた環状ケトンの分子内環化反応は、収率向上と基質適用範囲の拡大を検討する必要がある。さらに本反応を分子内反応から分子間反応へと展開し、一般性の高い反応の開発を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度得られたサリチルイミンを配向基として用いるアミン化合物のパラジウム触媒アリール化反応の研究成果を、学術誌に投稿する準備を行っている途中であり、さらに掲載決定までの過程において追加で実験を行う必要であると考えている。さらに、当初予定していた研究計画では予想していなかった、環状ケトンの炭素―水素結合と分子内アルケンとの間で炭素―炭素結合を形成する新規反応に関する研究成果が得られている。反応の収率向上や基質適用範囲の拡大などさらに詳細な実験・検討を行う必要があるため、次年度使用する額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
論文を投稿・修正するための追加実験や、当初の研究計画では予想していなかったカルボニル化合物の分子内オレフィンとの反応に関する研究の詳細な検討実験を行うために、反応剤や試薬の購入(380千円)、汎用有機溶媒(200千円)、反応容器やピペット、サンプル瓶などのガラス器具(150千円)といった消耗品の費用に使用する計画である。また、論文別刷代(50千円)、本研究の成果を学会等で発表したり研究討論のために必要な費用(100千円)を旅費として使用する計画である。人件費や謝金、その他の費用等は本研究を実施するにあたりあまり必要ないと判断し、予算には計上していない。
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