研究実績の概要 |
遷移金属触媒による炭素―水素結合の変換反応は、標的分子を短工程かつ副生成物を最小限に抑えながら有機分子を合成できるため、極めて有用な分子変換手法であるが、炭素―水素結合の反応性の低さゆえに効率の改善が急務である。本研究は、分子への活性基の導入・結合形成・活性基の再利用という一連の素反応から成り立つ触媒サイクルを確立し、これが炭素―水素結合の反応性の克服に資することを実証することを目的とするものである。 昨年度までに、2-エチルアニリンや1-ナフチルアミンのγ位炭素―水素結合のパラジウム触媒アリール化反応が、サリチルアルデヒドを触媒量添加するだけで進行することを明らかにした。本年度は、sec-ブチルアミンのγ位sp3炭素―水素結合のアリール化反応において、サリチルアルデヒドを触媒量用いる反応系の開発に取り組んだ。様々な塩基や酸化剤、添加物や反応溶媒について詳細に検討したが、目的の反応は全く進行しなかった。一方、本触媒反応の検討中に、同様の反応が2-ヒドロキシニコチンアルデヒド(Jin-Quan Yu, JACS, 2016, 138, 14554)またはグリオキシル酸 (Haibo Ge, Nat. Chem. 2017, 9, 26)を触媒量添加することで進行することが報告された。そこで、それらの反応条件を参考にしてさらなる検討を行ってみたが、目的のアリール化反応はほとんど進行しなかった。以上の検討から、sec-ブチルアミンのγ位sp3炭素―水素結合のアリール化反応において、サリチルアルデヒドを触媒量用いる反応系の開発は困難であると判断した。 本研究では、研究開始当初に想定していた触媒サイクルとは異なるものの、サリチルアルデヒドが第一級アミン類の炭素―水素結合の活性化反応を促進する活性基として働くことを見つけ、本研究課題の目的を達成する成果が得られた。
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