本研究では,均一系鉄触媒による高エナンチオ選択的なクロスカップリング反応を実現し,これを光学活性αアリールプロピオン酸誘導体の不斉合成に応用し,その有用性を示すことを目指す。現在の触媒的不斉合成技術の中核を担う,パラジウム,ロジウム,ルテニウム,ニッケル,銅のような希少あるいは毒性金属の代替,さらにはこれらの金属を凌駕する触媒機能を鉄で達成することに挑戦する。有機鉄反応活性種の溶液中での動的な会合挙動と分子構造変化,さらにこれらと連動するスピン状態変化を,適切なキラルホスフィン配位子を発見・創出することで制御し,イブプロフェンに代表される一群の消炎鎮痛剤の不斉合成を,世界初の鉄触媒不斉クロスカップリングで達成した。
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